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第1回 ナノテクノロジー研究
常識にとらわれない発想で、大胆かつ謙虚に挑戦する
成蹊大学理工学部教授 佐々木 成朗(ささき・なるお)
プロフィール
成蹊大学理工学部物質生命理工学科教授。理学博士。1997年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。2001年JSTさきがけ専任研究者、2002年9 月成蹊大学工学部専任講師などを経て、2006年4月より現職。文科省若手科学者賞(2005)、成蹊会学術賞(2005)、UBSスペシャルアワード(2006)、日本表面科学会論文賞(2006)、トライボロジー学会論文賞(2007)など受賞多数。
2007 年には「InternationalScientist of the Year 2007」に選出される。ビールとあんこが好物。
日常生活と密接に関わっているナノテクノロジー
 本学で「ナノテクノロジー研究室」を主宰して、早いもので五年目に突入しました。あっという間に過ぎた時間の中で進めた教育と研究についての雑感を書き留めてみます。ナノテクノロジーというと、「小さくて難しそう」というイメージを持たれる方が多いと思いますが、実は我々の日常生活と密接に関わっています。医療・バイオ、材料、IT、環境・エネルギーといった、政府が重点を置いている産業分野の基盤技術としてナノテクノロジーが用いられているのです。この現状を学生の皆さんに伝えるのが私の教育者としての仕事です。まず一年次前期のフレッシュマンゼミという入門的講義で、抗癌剤や化粧品の合成や燃料電池の開発にナノテクノロジーが使われているよ、という話をしてナノテクを身近に感じてもらいます。次に三年次前期のナノテクノロジーTで、物理、化学、生物というこだわりから離れて、ナノテクノロジーの幅広さ、奥深さを網羅的に伝えて、分野横断的なセンスを楽しみながら身につけてもらっています。
省エネに摩擦の軽減は欠かせない
 私はナノテクノロジーの中でもナノ力学という特殊な分野、とくに「摩擦を極限までゼロに近づける事」を目的とした先端研究を理論的に進めています。摩擦の研究が必要とされる第一の理由は省エネルギー問題です。摩擦で失われるエネルギーは国民総生産(GNP )の約数パーセント、十数兆円に上るといわれており、摩擦の軽減は燃料の節約につながるため経済問題に大きく寄与します。第二の理由はナノテクノロジーの要請です。ナノメートルサイズでは摩擦の効果が大きくなるので、作製した微小機械を動かしても摩擦で止まってしまう可能性が大きいのです。このように摩擦研究は産業上不可避の要請といえます。
床に転がるビー玉から生まれた大胆な発想
図1:超低摩擦研究の最初のアイディア。ナノの板(黒鉛)でナノのビー玉(フラーレンC60)を挟んで滑らせるシナリオ。
 では、どうしたら摩擦を減らせるのでしょうか?床にビー玉をばらまいて、その上で板を動かすと滑りが良くなる事は誰もが知っています。私はこの現象をナノの世界に持ち込んでみました。

 すなわちナノの板(鉛筆の芯と同じ黒鉛という物質)でナノのビー玉(炭素原子六十個が球体につながったフラーレンという物質)をサンドイッチ状に挟んで滑らせると超低摩擦が実現されるのでは? というシナリオを考えたのです(図1 )。

 ありがたいことにこの着想は成功し、ナノのビー玉が滑ったり、振動したり、転がったりすることで、摩擦が大幅に減少したのです。現在、時計などの精密機器メーカー、効率的なエンジンの動きを志向する自動車メーカー、スキーワックスメーカーなど複数のメーカーが、この材料システムを潤滑油やメッキの添加剤に実用化する方向で開発が進んでいます。

 実をいうと、このシステムを発表した当初、学会では「低摩擦になるはずがない」と否定的な反応でした。でも私は面白かったから続けて、その結果実現に持ち込みました。先端研究で大事なのは、何よりも先ず対象をどれだけ面白がれるか?夢中になれるか?ということではないでしょうか。常識に囚われない発想(遊び心)で未解決の問題に大胆かつ謙虚に挑戦すること、といえるかもしれません。そこからオリジナリティが生まれます。ちょっと大変だけど、その方が人生は面白くなるし、夢中になってひねり出した結果が社会の役に立ったり、学問そのものの発展に寄与するかもしれない。学生の皆さんには、時間を忘れて夢中になれる適職を見つけて人生を充実させてもらいたいと期待しています。
ナノテクノロジー研究室1〜5期生と一緒に


 そんな私の思いに共鳴してくれたいわば同志の学生諸君が研究室に集まってきてくれるのは嬉しい限りです。私の研究者としての姿勢が、そのまま学生の皆さんの人生に対して少しでも良きメッセージになるような教育者でありたい、と思っています。

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