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第3回 経済地理学研究
企業の空間行動を探る〜足下から俯瞰する世界像〜
成蹊大学経済学部教授 小田 宏信(おだ・ひろのぶ)
プロフィール
成蹊大学経済学部経済経営学科教授。理学博士。 成蹊中学・高等学校、立命館大学文学部卒業、筑波大学 大学院地球科学研究科単位取得退学。豊田短期大学専任 講師,筑波大学地球科学系専任講師などを経て、2006年 4月より現職。著書に、『現代日本の機械工業集積(2007 年経済地理学会賞受賞)』、『変動するフィリピン(共著、 近刊予定)』、『空間の経済地理(分担執筆)』など。代表論 文として、Alternative Dimensions between Marshallian and Fordist Spaces in the Japanese Manufacturing Development。 写真は、大田区西六郷の町工場にて。
経済経営の地理学
 地理学は広い意味での環境の科学です。人間社会 は未知の大地を知り、われわれの活動にふさわしい 形で大地を改変し、都市を造営して交通路網を構築 しました。環境への働きかけの結果として、地表上 にさまざまなかたち.が生じてきたのです。産業 活動においても、地表空間上に事業所をどのように 展開し、どのように組織するかが問題になります。 

 自動車王ヘンリー・フォードは、地理的センスに 秀でた人物でした。デトロイト一極集中の生産シ ステムを改め、分工場を張り巡らせていくのです ね。生産効率に加えて分散立地のマクロ経済的な意 義も見逃しませんでした。20世紀日本の企業家も、 フォードに影響されて地理的編成には敏感でした。 豊田喜一郎は三河地方に一極集中の生産体制を構築 し、松下幸之助はまさにナショナルな工場展開を繰 り広げていきました。 

 21世紀に入って、国内における工場立地がこ れまでとは違った動きを呈しています。シャープの 亀山工場をはじめ、少し前までは予想もつかなかっ た大都市圏に新規工業立地が進んでいるのです。開 発と生産の地理的近接性こそ競争力の一つの源泉だ という認識が広がりはじめたためです。
地域に根ざしたモノづくり体系
大田区の町工場にて、大型のマシンニングセンターを前にレクチャーを受けるゼミ生。
 私のメインフィールドは機械工業の集積する地域 です。20代の頃に目をつけたのがモノづくりの基 本となる金型製造業でした。ME(※マイクロエレクトロニクス)化の進展下、 熟練技能が設備に代替されることで工業地域の外 部性に依存する必要がなくなるではないか、これが 研究の出発点でした。ところが、生産現場を歩いて みると地域集積の役割が終わったとは決して言い切 れない。あの不況下、伝統ある品川区の型屋さんが 「仕事に困らない」と豪語していました。機能部品 用の金型に関しては、そこは世界で最も競争力を備 えた場だったのです。高精度で削り出す職人技のみ ならず、特化した関連技術が近場にあって、地域に 埋め込まれた生産システムを形成していたからです。 

 その後、内外の工業地域をみつめてきましたが、 最近、久々に東京城南の町を歩いています。大田区 の工場数は全盛期に比べて半減しています。しかし、 そこに残されている町工場の力強さには目を見張る ものがあります。工作機械のコアとなる駆動部品が、 依然として小零細工場のネットワークによって作り 続けてられているのですね。しかも、地元の工業高校 と町工場の連携によって、次の世代の職人たちも育 ちつつあります。「メイ ドイン蒲田のカリスマ 職人を、この土地の力 で作り込みたい」とは、 若き経営者の弁。心強 いばかりです。 「大田区を見れば、 日本が、そして世界が わかるんだ」と、ある人から教えを受けて、この町を 原点に座標軸を広げてきたつもりです。その意味で 原点回帰を忘れないようにしようと思います。 

草の根の成蹊地理教育
 経済学部における地理教育の役割、それはグロー バル/ローカル双方の 空間秩序を知ること です。ビジネスパーソ ンが確固たるメンタル マップを描いていなけ れば、企業は「限定さ れた合理性」のもとで しか空間的に行動できません。一方で、地理学には フィールドワークを尊重する伝統があります。私自 身、自分に鞭打ってでも、諸地域の現場をみてきた ことは、かけがえのない財産だと思っています。です から、ゼミ活動でもなるべく現場を見て聞いて歩く 機会を作るよう努力しています。地域を歩けば、企 業論理だけでなく、市民生活の論理も、労働者の論 理も、さまざまな協同の論理も発見できるはずです。 このようにして作り上げた卒業研究は、それがどん なに草の根的なテーマであっても、やがて開花する であろうオンリーワンの成果だと思うのです。 
群馬県桐生市にて、繊維技術と繊維工業地域の発展を学ぶ。
 


 かつて成蹊学園の地理教育を作り上げた伊藤隆 吉先生のゼミ報告書が本学図書館に残されていま す。当時の吉祥寺商店街を丹念に調べ上げた、いま となっては非常に貴重な文献です。本学園の地理教 育の伝統を引き継いで、私のゼミもかくありたいと 思うのですが、如何せん、学年暦は窮屈になるばか りで、思うようにゼミ生を連れて外を歩けない.. 昨今の日本の「学びの現場」の一面でもあります。

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