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第16回 人間工学
出会った人から受けた感動が、人間工学を追求する原動力に
成蹊大学理工学部教授 大倉 元宏(おおくら・もとひろ)
プロフィール
早稲田大学大学院理工学研究科前期課程修了、成蹊大学助手、専任講師、助教授を経て、1997年より教授。専門は人間工学。視覚障害の歩行特性、移動支援設備、コミュニケーション支援機器の研究開発に従事。
人間の素晴らしさに感動
 「人間工学」とは、人間を取り囲むすべてのもの、例えば、道具、機械、システム、環境、などの使いやすさを追求する技術分野である。
この分野の勉強を始めてから三十数年、講義をもってから二十年が経過した。この間、さまざまな作業現場を訪れ、問題解決のための調査や実験を行ってきた。そこで出会った人から受けた感動がこれまで私を支えてきてくれたように思う。
 ベルトコンベヤー上を高速で移動するビール瓶の欠陥を極めて効率的な目の動かし方で見つける検査員(ただし、長時間はきついので十五分程度で交代)、自動車の組立工場で前進二段変速のフォークリフトを巧みに操り、高速で部品を運搬する運転手、二次元のレーダ画面と音声による交信から三次元で複数の航空機の位置を頭に描く航空管制官、速度の信号制御を先読みして滑らかな加減速を行う新幹線の運転士等々、どれも感動の連続であった。
 とりわけ、視覚障がい者から受けた感動は特別なものであった。なぜなら、人間工学では、人が行動面で利用する情報のほとんどは視覚から取りこまれると教えてきたからである。その通説が根底から崩されたわけで、衝撃すら覚えた。会議等の録音テープを繰り返し聴き、カナタイプライターを使って文字におこす録音タイプ速記では、一定のタイムラグをもった聴き取りと打鍵の同時進行に目を見張った。歩行中、反響音の変化を察知して、直接触らなくても鋭敏に障害物の存在に気づくことには驚かされた。
音が鳴るとはいえ、三次元で動くボールを扱うブラインドテニスや同サッカーにおけるラリーやダイレクトシュートは人間技とは思えなかった。ある機能が失われても、それを別の機能で補う、人間の補償能力の何と素晴らしいことか。
感動のなかみを解明する
 その感動や衝撃を学生に伝えたいと思い、いろいろな現場に学生を同行してきた。ただし、感動してばかりでは仕事は進まない。その感動のなかみを科学的な手法で解明しなければならない。学生と一緒に、いろいろな装置を持ち込み、計測、解析する。そう簡単にはいかないが、いくつかわかってきたこともある。単独行動経験の長い視覚障がい者に歩行をしながら、もう一つ別の仕事を行ってもらい、別の仕事の成績から歩行中の余裕の程度を測ってみた。行動経験の長さからみて常に余裕を持って歩いていると予想していたが、進路を誤り、再度、目的の方向をみつけようとしたり、道路を横断したりする際には、別の仕事の成績が低下していた。慣れていても、場合によってはその人の全能力を動員しなければ対応できないのである。視覚情報の得られない歩行では、まっすぐ歩こうとしても実際の歩行軌跡は左右どちらかに曲がるという偏軌傾向が知られている。この偏軌の機序については未だ確定的な説明はないが、われわれの実験では、場における音の影響が示唆されている。例えば、目標に向かってまっすぐ歩こうとしている時に、側方から騒音が出されると、騒音とは逆の方向に偏軌することが観察されている。
 感動のなかみの解明はたやすくないが、これからも大勢の人に出会い、その素晴らしさに感動し、その感動を学生と分かち合いたいと思っている。
三次元運動計測システムによる歩行軌跡の
測定

二次元課題法による歩行中の余裕能力の測定

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