酸性雨の観測

竹内氏の観測
観測法
観測結果

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竹内丑雄博士による観測
 竹内丑雄博士(元成蹊小学校教諭)は,1944年に故・三宅泰雄博士から水質分析の指導を受け,第二次世界大戦以降,降水化学の分野で地道な研究を積み重ねてこられました.
 博士の研究初期の主な成果としては,流跡線による降水化学成分の変化の解析が挙げられます*1).右下の図は,当時,竹内博士が教鞭をとっていた長野県での観測結果です.前線が長野以南のときは,降水中の塩素イオン濃度が低く,逆に前線が長野県の北にある場合には,塩素イオン濃度が大きくなります.後者の場合,海塩起源の塩化物が,南風にのって内陸部まで運ばれていることが明らかです.これは,降水の化学成分が,大気の流れの影響を受けることを,世界に先駆けて示した成果です.
 竹内博士は,1958年に成蹊小学校に移り,降水化学の研究を続け,吉祥寺の降水化学成分の変化が,関東地方に流入する数種の気団の性質によってコントロールされていることを示しました.また,エネルギー消費が大きくなるのに従って,降水に含まれる硫黄同位体組成が火山などの自然放出源のものから,石油などの人口源のものに変化することを示しました*2).この成果により,東京教育大学から学位を受けました.

1)竹内丑雄、長野における降水中の塩化物量と上層を占める気団との関係、気象集誌、27,25-28,1949年
2)中井信之、高橋直子、竹内丑雄、降水中のSO4=の由来と大気汚染、地球化学環境問題特別号、118-124, 1975年

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成蹊気象観測所の観測方法
  1990年頃から,日本国内でも新聞報道などにより,酸性雨に関する関心が高まりました.成蹊中学校でも,この問題に興味を持つ生徒が,アサガオの花弁の脱色などの調査を始めました.1993年には,日本学生科学賞全国大会で入選する成果を上げました.
 成蹊気象観測所でも,生徒の調査をバックアップする目的で,1991年から降水のpH測定を再開しました.






デポジット・ケージによる降水の
採取.ポリエチレン製20cm径ロ
ートを2組用い,毎日9時に交換
する.モデルは物理実験助手の
高橋さん.
共立化学製パックテストに
よる降水pH の測定.
pHメーターによる測定の方が
より精確だが,生徒観測のパック
データをとることが目的なので,
簡便なパックテストを用いている.
電気化学工業製自動
酸性雨測定装置.
武蔵野市役所に設置され
ていたものを移設された.
自動酸性雨測定装置ロガー
部分

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観測結果

降水pHの経年変化,その1
 左の図は,竹内博士によって測定された1977〜1980年の降水pHと最近の
データを比較したものです.測定方法が異なるために,正確な比較はできま
せんが,20年間の間で大きな変化はないようです.
降水pHの経年変化,その2
 右の図は,1991年からの個々の降水pHを時系列でプロットした
ものです.グラフの点の間隔の狭いところが梅雨期に,点の間隔が
広いところが冬季になります.夏季に低いpHの降水が多く,冬季に
は高いpHの降水が多くなることがわかります.また,台風などに伴
う強い南風が吹いた場合には,降水pHが高くなります.
1999年7月1日の降水
降り始めから0.5mm毎のpH変化を示しています.降り始めのpHが低く,
次第にpHが上昇します.これは降雨初期のwash outにより,酸性物質
が多くなることによる,とされています.
1999年8月13〜14日の降水.
積算雨量曲線の傾きが急な部分は,降雨強度が強い部分に相
当しています.これに伴って,降水pHも激しく上下し,一連の降水
でも酸性物質が繰り返し流入していることを示しています.

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