現代社会学科の学び

発見する

授業の事例から:「コミュニティ演習」履修者インタビュー

街の記憶から浮かび上がってきたもの

ー写真アーカイブから地域を見つめ直す

左:伊田結美子さん 右:濱田佳苗さん

-伊田さんと濱田さんは2016年度の「コミュニティ演習」を受講されましたが、どんな内容だったのでしょうか?
伊田 毎年違うのですが、私たちのときは「街についての記憶を記録へ」というテーマでした。吉祥寺今昔写真館委員会という団体が保存している古い写真が撮られた場所や時期を特定し、アーカイブ化する作業をおこないました。今回対象としたのは、アマチュア写真家の故石川正一さんがご自身で整理した2冊のアルバムに収められていた吉祥寺の写真です。
-どうやって作業を進めていったのですか?
濱田 最初は雲をつかむような調子だったのですが、とりあえず写り込んでいるものを抜き出していきました。交差点の標識とか、映画のポスターとか、お店の貼り紙とか、そういうところから撮影の場所や時期がわかることがありました。
伊田 それから昔の地図と照らし合わせてみたり、今の現場に行ってみたり、当時の様子をご存知の方にお話をうかがったりしました。たまたま街を歩いていて、あ、ここだ、と思ったこともありました。
-そうした作業を通じて、どんな発見がありましたか?
濱田 まず、一枚一枚の写真の中からいろいろな情報を発見していくプロセスがありました。そのうちに、多くの写真が昭和50年代はじめに撮影されたものであることが分かってきました。また、同じ場所をだいぶ後になって撮影した写真も混じっていました。こうしたことから、石川さんがどうしてそういう写真を撮ったのか、意図のようなものがだんだん見えてきました。
伊田 当時、吉祥寺では駅のまわりの再開発が進んでいたんです。公園通りの拡幅工事があったり、駅北口の三角地帯と呼ばれていた一帯が取り壊されたりしました。そうしたなかで石川さんは、どんどん変わっていく吉祥寺の姿を残しておきたいという思いから、これらの写真を撮り、2冊のアルバムにまとめたのではないかと考えました。
濱田 街はどんどんきれいになっていったけれど、一方で立ち退きを迫られたり、昔ながらの風景が消えていくのを見て寂しい思いをしたりした人たちもいたようです。石川さんの写真を通じて、当時の人たちのいろいろな思いが浮かび上がってくるようで、鳥肌が立つような思いがしました。この授業では、昔の写真をめぐる今の人たちの記憶を記録に変えようとしていたのですが、逆にそこから、昔の人たちの吉祥寺の記憶が伝わってきたような感じでした。
-そうした発見を通じて、なにか得られたものはありましたか?
濱田 私たちがふだん何気なく歩いている街、撮っている写真、そういうものの中にも実はさまざまな背景があって、時間がたつことではじめてわかる深みや重みがあるということがあらためてわかりました。
伊田 今、日本中で街づくりの必要性が言われていますが、そこで大切にしなければならないこと、見落としてはいけないことについて、自分なりに考えるようになりました。
-演習形式の授業を取ってみてどうでしたか?
濱田 自分から主体的に動いて、なにか一つのことを探り出していくことがこんなに面白いことだったなんて、この授業を受けてみるまで思ってもいませんでした。
伊田 実践的な作業に取り組んでいくなかで、講義で学んだ知識とのつながりが見えてくることがありました。そういうところが現代社会学科の魅力だと思います。

この写真は、現在の吉祥寺LOFT付近にあった喫茶店「古城」(写真提供:吉祥寺今昔写真館委員会)。右下に写り込んでいる貼り紙に道路の拡幅工事について書かれていることから、1976年ごろ撮影されたと推測される。右の写真は同じ場所に現在建っている「古城ビル」。ビルの屋上に昔の建物を彷彿とさせる尖塔がある。