所長挨拶

アジア太平洋研究センター所長:高安 健将

 2018年度よりアジア太平洋研究センターの所長を仰せつかりました本学法学部の高安健将と申します。アジア太平洋研究センターは、成蹊大学唯一の常設研究機関として1981年に創設されました。センターが創設された当時、世界はまだ冷戦の真っ只中でした。 世界は、資本主義陣営と共産主義陣営、自由民主主義国と非自由民主主義国、当時の言葉で言う「先進国」と「発展途上国」に分断されていました。 アジア太平洋という言葉は、そうした違いを超えて、ひとつの地域の中で国ぐにそして人びとが隣人として共に生きていることを確認し、相互の交流と理解を深める意義を宣言する意味合いをもっていたように思います。

 その後、アジア太平洋という地域は、関係性を深化させ、今日、国や社会、人の間の重層的なつながりへと発展してきました。ただし、それは単線的に調和と友好を深めるというばかりの地域ではありませんでした。現在でも、イデオロギー、体制、歴史認識、安全保障、経済利益、領土・領海など、域内の国家が対立する理由は多く、国民同士の感情的対立に至ることも少なくありません。しかし、それはアジア太平洋という言葉の意味を失わせるどころか、むしろ人び とが隣人として暮らすことの意味を自覚させる重要な契機となってきたのです。

 汚染された空気や水が国境を認めてその流れを止めることはありません。鳥インフルエンザのような伝染病は、人や動物、モノの移動とともにやはり国境を越えていきます。ある国が戦争や内戦、内部崩壊、経済危機に直面すれば、隣国も深刻な影響を受けざるを得ません。他者の不幸は自らの不幸となる、それが同じ地域に生きるということではないでしょうか。

 もちろん、隣人をもつことには素晴らしい面がたくさんあります。災害などでは助けとなってくれることも多いでしょう。自分たちの知らなかった文化を知るということもあります。音楽、美術、舞踊・ダンス、文学、歴史、衣服、食事、飲み物、遊び、スポーツなどを知り享受することは、私たちの生活を実に豊かにしてきました。他国の文化が自国と実は密接に結びついてきたことを確認することは、まさに自らを知ることです。そして、隣人とのつながりは、時に経済的利益ももたらします。他者と交わることで、自分たちが当然と思っていたことが必ずしもそうではないと知り、生き方が解放されるということもあるかもしれません。

 異なる文脈をもって生きている人びとがともに暮らすためには、相互の理解が欠かせません。そして相互の理解のために言葉は頼もしい道具となります。 音楽も絵も映像も経済活動も人びとの息づかいさえも、人と人の間を媒介するすべてのものが互いを理解するための方途となり得ます。なぜ他者を理解するのか。 それは共に生きるためです。アジア太平洋研究センターは、このようなさまざまな道具立てを駆使して、この地域に関する研究を進めてきました。

 近年、多くの領域で「研究」は逆風にさらされています。 真実を軽んじ情念によって人びとを動員しようとする時代が到来したことを示す‘Post truth’ という言葉があります。‘Post truth’に象徴される反知性主義は、知的活動である研究の意義そのものに対する疑念を作り出そうとしています。 財政赤字の中で何に予算を振り分けるべきかといった問題は深刻である一方で、研究の効率性や効果を過剰に追求すれば、それは官僚主義や管理主義をもたらし、 研究を窒息させます。しかし、そうした不毛とも思われる研究の積み重ねこそが国や社会、人に対する理解を深めてきました。

 成蹊大学は幸運にもそのような逆境の防波堤となって研究を支え、それが教育と社会貢献につながる好循環を作り出してきました。アジア太平洋研究センターは、 成蹊大学の行う研究活動の最前線を担う拠点のひとつとして、これからも学内のみならず社会に開かれた活動を行い、これを支援して参ります。 今後ともアジア太平洋研究センターをどうぞよろしくお願いいたします。

 

成蹊大学アジア太平洋研究センター

Center for Asian and Pacific Studies, Seikei University

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