研究の内容
日本人にとって英語ってなんだろう、というのは私が高校生の頃から気になっていたテーマでした。話せたらかっこいい、でも話さなくても問題なく暮らしていける。学校の教科だけどそれだけでなく人の「格」を決めるような力がある。英語は好きだけどその好きな英語をペラペラに話せない自分は嫌い。大学に入り、社会言語学という、社会と言語の力関係や構造を研究する学問分野があるのを知って、これだ!と思いました。ゼミでは、このような自分の身近な疑問から言語と社会について考えていくことをしています。この数年のトピックは Language attitudes にからめたものが中心です。Language attitudes とは、「この言語は温かい・冷たい」「この言語はかっこいい、ダサい」「この言葉遣いは美しい・汚い」というような我々が抱く言語(方言や若者言葉なども含みます)への感情を指します。加えて、わたしが会議通訳者でもあるために、通訳の理論や実践についてもとりあげることがあり、最近は機械翻訳に興味を持つゼミ生が多いです。ちょうと今、漫画の日本語のオノマトペをどう英語に訳すか、というトピックに挑戦している学生もいます。2022年度は言語とジェンダーがテーマです。女性を表す英語・日本語に埋め込まれたジェンダー感や、女性の話し方をどう評価するのかという社会の価値観などを見ていきます。
研究の進め方
私のゼミでは、授業の最初にかならず10分くらいかけて「気づきのシェア」をします。ゼミの学生たちは、その一週間で見たり聞いたりした言語事象で気になったことについてまずは小グループで一人1分ほどで話し、そのあと各グループからひとり、「これは全員でシェアしたいね」というのを発表してもらいます。卒論のトピックがここから生まれることも。3年生のゼミの授業は社会言語学のテーマに添ったものを毎年選び(英語の原著を選んでいますので英語を読む力もつきますよ!)、それを毎週2−3名で「先生役」になってスライドを作ったり配布物を作成したりして「解説」をしてもらいます。これが上手にできるようになるためには、まずは自分が教科書に書いてあることを100%理解しなくてはいけません。その上で、YouTube上のビデオやさらに調べた詳しい情報など、プラスアルファの資料も加えながら、解説します。加えて、他のゼミ生に質問をしたりリサーチさせたりディスカッションをさせたりして、授業の間飽きずにいられる工夫も必要になるので、プレゼン能力が鍛えられます。3年生の最後には4年生で書く卒論について、研究計画書を書くことになります。この時期になると、お互いに「その計画は無理なのでは?」「ここはもっとはっきりさせないと」と、しっかり批評ができるようになっています。4年生は卒論を書くのが中心です。論文を書くために必要な「御作法」もしっかり身につけ、多くの文献を読み、知識を自分のものにし、それぞれのテーマにあったデータを集めて分析していきます。言語景観をテーマにしていれば何度も写真を現場に行きますし、アンケートやインタビューをする場合には、そのやり方を学んだ上でパイロット研究(アンケートやインタビューを本番の前に実施してみて修正・調整をするための機会)も実施します。データを見ながら、それをどう分析してどう意味付けしていくかというのは、もっともチャレンジングな部分ですが、ここで「あれ?え!」という発見があればしめたもの。ゼミ生同士でも互いに「発見」について話をする機会も持ちつつ、卒論を書き上げます。最後には後輩(ゼミの3年生)も招いての卒論発表会。口頭での発表力も磨きます。
社会との関わり
毎週の「気づき」のネタ探しのために、言語についていろいろと敏感になります。街中の看板の表記、友達の発言、SNSで見かけた言葉遣い、etc. 見るもの聞くもの全てがネタ探しの対象になります。加えて、トピックがジェンダーと言語、英語と日本語、だったりするので、社会人になってもあらゆる場面で言葉や言語表現に敏感になります。ある卒業生が「会社の人がそれぞれ女性をどう見ているのかというのはその人の話し方や使う語彙で分かる!」と言っていました。また、使われている言語表現がつくりだすディスコースを読み解くこともこのゼミのテーマの一つなので、表面的な言葉にだまされにくくなる、と思います。「あの人が今、こういう言葉遣いをしているということは、本当は・・・と思っているに違いない」と、深く考える習慣がつくからです。このように言語から人間観察をすることによって、(あまり)騙されない人になれる、というのもプラスなのではないでしょうか。
ゼミ・研究室の魅力
- フィールドワークができる
- ⽂献を読み解く力が身につく
- プレゼンテーション⼒が⾝につく
- 語学力が身につく
- 論理的な思考力が鍛えられる
卒業論文のテーマ
- ボンド映画の悪役の話す英語と世界情勢
- RPGのキャラの英語と言語姿勢
- 英語の形容詞に見られるジェンダー感
- 政治家の話し方とそのイメージ操作
- 若者言葉は乱れているのか
- 機械翻訳にできることとできないこと
学生の視点: 学生からの研究室紹介
あなたの研究室を紹介してください。
日常生活や習慣に見られる「ことば」がもつ社会的価値観を考える
私たちのゼミでは、様々な「ことば」の日本語・英語の使われ方に込められた意味や社会背景などを研究し、社会をより多角的に捉える力を養います。例えば、「ググる=Googling」という言葉が一般的になるまでの変遷や、英語の階級や性別によって発音が異なるという事象、街中の看板に見られるその地域の言語特徴や社会的なメッセージを読み解く「言語景観」など、様々なトピックからジェンダーや社会的価値観について考察・研究しています。
ゼミで毎週行われる「気づきのシェア」のおかげで、話すネタを探すうちに日常の中で使われている「ことば」に敏感になりました。この時間から卒論のテーマへと発展した学生もいます。また、グループワークでは学生が先生役になって教える機会もあるので、理解もプレゼンテーション力も磨かれます。英語英米文学科だからといって、文学に限定されるわけではなく、「ことば」を切り口にそれぞれの興味・関心について広く深く考えることができるゼミです。
先生はどんな人?
もう一歩勇気が必要なときに、背中を押してくれます。
学生一人ひとりの考えや気持ちを尊重し、挑戦を後押ししてくれます。データ収集のため、写真撮影の許可申請をした際に断られてしまったときも、先生の「もう一度トライしてみよう!」という励ましのメールのおかげで、再挑戦して無事に許可を得られたことがあります。日々、私たちに気を配りながら、研究者として生成AIの翻訳ツールについても言語学的なアプローチで検証、研究を重ねられていて、やはりすごいなと感じます。学期末に開催しているゼミの食事会では研究だけでなく、趣味の話をはじめ、楽しくいろいろな質問にも答えてくれるフレンドリーな先生です。
教員のプロフィール

森住 史
Fumi Morizumi
ロンドンに1年エディンバラに1年と、イギリス留学経験あり。会議通訳者としての仕事からビジネス英語に触れる機会も多く、2011年度後期NHKラジオ「入門ビジネス英語」を担当。2012年度からAsahi Weeklyのコラム「森住史の英語のQ&A」を連載中。
- 研究分野
- 社会言語学(言語とジェンダー、英語のステータス)、翻訳通訳学(通訳ティーチング、職業倫理)