社会発信

2021年度開催イベント
アフターレポート

成蹊大学Society 5.0研究所主催 第2回講演会(2021年11月24日開催)
「Society 5.0を支えるスーパーコンピュータ~立法と行政が技術を支えられるか?」

成蹊大学法学部法律学科 3年 堀本 二千花

  •  「スーパーコンピューター」と聞くと何を思い浮かべるだろうか。おそらく、マスク素材の違いによる飛沫シュミレーションであろう。このシュミレーションは大変注目され、"ウレタンマスク警察"まで誕生した。しかし、それ以外にも、実はスーパーコンピューターは私たちの生活に深く関わっているのだ。例えば、音声認識、機械翻訳、地図ナビゲーション、マーケティングが挙げられる。スーパーコンピューターは現代社会を支えている。
  •  このような現代社会に欠かせないスーパーコンピューターで日本は世界を席巻している。2021年スーパーコンピューター性能ランキングで富岳は4冠を達成した。TOP500(工学系の問題を解くために巨大な次元の連立一次方程式を解く速度を競うもの)、HPL-AI(AIに関する問題を解くために連立一次方程式を解くもの)、HPCG(飛行機や車が走る時の空気抵抗、船が走る時の波の抵抗、恒星のシュミレーション等に使うときの計算を解く連立一次方定式を解くもの)、Graph500(ネットショッピングの際「この商品を買った人はこのような商品も購入しています」という推薦をするときの基礎になるようなアルゴリズムを競うもの)の4つで1位となった。Graph500については1位の富岳のほか、3位と4位にも日本のマシンがランクインしている。Green500 (スーパーコンピューターの省エネ効率のランキング)の1位は日本のユニコーン企業のマシンだ。
  •  日本の技術が世界をリードする一方、日本の行政と立法は技術に追いついていない。技術を社会に取り入れるために必要な法整備について、日本は世界に遅れをとっているのだ。特にAIに関する法律の整備の遅れが諸外国と比べて顕著である。デファクトスタンダードの国であるアメリカでさえ、国家AIイニシアチブによって、AIを利用する際に充さなければならない規則等を作っている。EUは、法整備で世界をリードするため、AIのための倫理ガイドラインを公表している。中国ではAIに著作権を認める動きがあり、欧米を意識しつつ中国として先導する試みがなされている。一方、日本では平成30年著作権法改正で改正前第47条の7の規定が改正後第30条の4の規定になったということのみで、その他AIに関する法整備については全て検討中である。もっとも、この著作権法改正についても、西川氏は15年遅いと指摘する。早稲田大学にあった千里眼という検索エンジンが、改正前著作権法が壁になって実用化できなかったということがあったからだ。行政が法整備するのは良いが、それが遅かったら意味がなくなると西川氏は述べていた。
  •  内閣は、Society5.0が我が国の目指すべき未来の姿であると提唱した。Society5.0とは、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会をいう。Society5.0の実現には、膨大なコンピューター処理が必要であり、スーパーコンピューターの存在が必要不可欠である。そして、日本には最高のスーパーコンピューターを作ることのできる科学技術がある。しかし、法整備がその技術に追いついていないために、技術を社会に十分に生かすことができていない。内閣が我が国の目指すべき未来の姿としてSociety5.0を掲げた以上、法整備を一刻も早くすべきである。
  •  私たちにも、法整備を進めるためにすべきことがある。それは、行政に向けて法整備をするように声を上げるということだ。そして、そのためには、行政と立法が技術に追いついていないという現状を知ることが必要となる。私たちがこの現状を認識し、多くの人が問題提起すると、行政も本腰を入れて法整備するのではないだろうか。また、私たちがAIに対する正しい知識を持つことも必要である。マスコミは、人間の仕事が全てAIに奪われるのではないか、近い未来、AIがそのAI自身よりもさらに優れたAIを開発できるようになり、無限に知能の高いAIを作るようになった結果、映画「ターミネーター」のような世界になるのではないかというAI脅威論を煽る傾向がある。それゆえ、私たちはAIが進化することは少し怖いことのように感じてしまい、AIに関する法整備についても消極的になっている。恥ずかしながら、私自身、このAI脅威論を信じていた時があった。しかし、今回の講演を拝聴し、AI、スーパーコンピューター、量子コンピューターについての正しい知識を得たため、AI脅威論で危惧されているようなことは起きないと今は断言できる。このように、AIに関する正しい知識を持ち、AIは人にとって脅威ではないことを認識すると、AIに関する法整備にも積極的になり、行政に対して声を上げるようになるのではないか。
  •  日本には世界に誇れる技術があるにもかかわらず、日本の行政と立法は技術に追いついていない。このような現状を打破すれば、将来、日本にGoogleができるかもしれない。