研究所概要

所長挨拶

佐藤 義明

佐藤 義明

少子高齢化が進む日本が「課題先進国」と呼ばれて久しくなりました。地震・津波・台風・COVID-19をはじめとする感染症の流行などの災害への対応も課題です。さらに、周辺国が核兵器・ミサイル・無人航空機・人工知能(AI)を搭載した自律型致死兵器(LAWS)などの軍拡を急速に進めているという安全保障環境の悪化への対応も死活的な課題です。課題先進国という呼称は、日本がこれらの課題の解決試行先進国から課題解決先進国へと進化することを期待して与えられた呼称です。

この期待は実現しているでしょうか。日本はSociety 5.0の望ましいあり方を提示し、課題解決先進国になりつつあるといえるでしょうか。例えば、特許申請件数をみると、2010年の34.5万件が2019年に30.8万件に減少し、同じ期間にそれが増加した欧米はもちろん、とりわけ39.1万件から104.1万件へと増加した中国に引き離されているようにみえますが、日本は、課題が山積しているだけの取り残された国になっていないでしょうか。日本は、Society 5.0に移行しつつある各国に伍して、これからの世界で生き残れるでしょうか。

日本における科学・技術の革新と望ましいSociety 5.0の構築に課題があるとすると、それは、理工学の研究者の個人的な問題ではなく、社会的に必要な研究を選別し推進する社会システムの不備の問題であると考えられます。この課題を克服するためには、創造的研究に対する社会的障害を取り除き、それを後押しすること、および、汎用技術を含む科学・技術を社会的に制御する制度を構築することが同時に必要であり、自然科学と社会科学の研究者が参加する「学融合的研究」の推進が不可欠です。

日本の課題は日本人の課題です。人間に代わってAIが処理する仕事が増えるSociety 5.0で各人が仕事を確保するためには、終身雇用を前提として職場に順応することよりも、職場を越えて通用する能力を身に着け、それを生涯にわたり向上させ続けることが必要です。現在の日本の教育制度は、自己研鑽の動機付けとその手段の提供という要請に十分対応していない面があると考えられます。課題の認識・解決の現場である企業・政府・自治体と大学を含む教育機関が連携・協働し、教育を改革していくことは喫緊の課題です。

三菱創業150周年記念事業委員会からご支援を頂いて開設された本研究所は、望ましいSociety 5.0の構築・発展に向けて、産官学のリーダーと研究者・学生がスクラムを組む場となります。それは、自己の個性を研鑽・発揮すると同時に、個性を尊重し合いながら他者と協働するという成蹊大学の建学の精神を実現する場でもあります。ともにSociety 5.0を切り開こうとする情熱(パッション)と洞察(ヴィジョン)をおもちの方々からの本研究所の活動へのご支援を心よりお願い申し上げます。

略歴

東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了、博士(法学)。
ハーバード大学国際問題研究所研究員などを経て、現在、成蹊大学法学部教授、日本学術会議連携会員、東アジア共同体評議会議員。