社会発信




2024年度開催イベント
アフターレポート

成蹊大学Society 5.0研究所主催 第11回講演会(2024年4月20日開催)

「先端技術を活用した海辺の安全管理」


成蹊大学法学部教授・Society 5.0研究所長 佐藤 義明

中央大学教授・日本ライフセービング協会(JLA)理事の石川仁憲氏による標記講演会は、19歳の時にライフセーバーとして遭遇した事故で、氏がCPR(心肺蘇生)を施した溺者が陸に運ばれたが亡くなったという経験がその活動の原点にあると説き起こされた。そして、日本における水の事故の現状として、湯を溜めて入浴する風習ゆえに、世界的にもロシアについで件数が多いこと、水遊びや遊泳中にも毎年100名前後が亡くなっていることなどが紹介された。さらに、全国に1500以上ある海水浴場のうち、約200か所でJLAが活動していること、それらでは監視員1人当たり約1000人を監視することもあることなども紹介された。

 このような状況で、海水浴場における事故の原因として46%を占める離岸流に注目した「AIとIoTを活用したみまもり」システムの開発について説明がなされた。すなわち、離岸流は視認することが困難であるところ、定点カメラを設定し、その映像から監視員の経験に照らして離岸流に当たるものを学習させ、その発生や離岸流の中に人がいる状況をAIが検知しアプリを通して遊泳者や監視員に警告するシステムである。このシステムは、遊泳者からの「助けて」サインの検知に拡張されたり、ドローンによる遊泳者の直上からの警告などとも組み合わされたり、津波の警報と連携されたりするなどの充実化が図られているとされた。

 このシステムの開発は、初期費用が極めて高額であること、汎用可能なデータが少なく海水浴場ごとに学習させる必要があり、導入された海水浴場はまだ4カ所であり、1年に1カ所ずつ導入していくことが精いっぱいであること、風などの条件ゆえドローンによる警告の音が遊泳者に十分届かない場合があることなどの課題も多数残されているが、導入された海水浴場では、大きな事故の件数が52%ないし100%減少したという実績を出し、有効性が高く評価されていることも紹介された。今後、データの蓄積が進めば、海水浴場ごとにデモンストレーションも用いて学習させるのではなく、汎用可能な離岸流検知AIが開発され、導入コストが低減されることが期待されるとされた。

続いて、手書きの活動記録から電子的なE-logへの移行が進められているところ、それは単に情報の同時的集約・公表を可能にするのみならず、例えば、浮き具をもつ遊泳者の救助件数が多いのに対して、浮き具なしの遊泳者の場合には心肺停止の事件に至ることが多いという知見が得られ、監視員による活動に対しても監視の重点の特定など有益な示唆を与えているとされた。また、海における活動に加えて、プールにおける活動も行われており、溺水原因となる行動――水深調整台の下に潜る行為や浮き輪を反転させる行動――や、溺水者の特徴的な行動――もがく動作を伴うとは限らず、静かに水に浮いていたり、はねたり梯子を登る動作をしたりする――をAIに学習させ、監視員に警告するシステムが開発されていることが紹介された。さらに、世界においても危険な箇所を拡張現実(AR)で表示するシステムの構築などが試みられているとされた。

 本講演を拝聴して報告者が考えたことは以下の通りである。少子超高齢社会においては海辺の利用の絶対量は漸減せざるを得ないが、開放水域の利用にはプールなどの閉鎖水域の利用とは異なる学びや楽しみがあることから、それを活性化することは望ましい。それゆえ、救助等を担う体力を持つ若年層のライフセーバーが減少しても、中高年がその能力に応じてライフセービング活動に参加することを可能にするAIやICT技術の活用は重要な意義をもつ。事故防止のための啓発が最も重要であることはいうまでもないが、人間は過つものであることから、事故の発生に対する安全装置として、ライフセービング活動は海辺の安全に不可欠なインフラストラクチャーである。石川氏の開発されているシステムは、日本さらには世界の海辺の活動に適用可能なものであり、それらの持続可能な発展を可能とするものであり、今後の発展が大いに期待される。