成蹊大学Society 5.0研究所主催 第20回講演会(2026年5月25日開催)
「金融機関におけるデータアナリティクスの進展」
成蹊大学Society 5.0研究所客員フェロー
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
伊藤 敬介
「データは宝の山」「全社員にデータ分析教育を実施」「保険金査定にAI活用」...この10年で、データアナリティクス(データ分析)や機械学習、AIなどに関する関心が大幅に高まっている。この現象は、金融業界にもそのまま当てはまる。80年代までのような、お金が希少な資源であった時代には、「どこにお金を貸すべきか」を決めることが金融機関の重要な付加価値の一つであったが、余剰資金が企業内に潤沢に滞留する今日、お金だけでなく「情報」や「知恵」を如何に提供できるかが金融機関に問われている。このため、市場データ、マクロ経済データ、顧客データ、ウェブサイトへのアクセスデータを始めとする幅広いデータを収集し、これらのデータを見える化して、お客様がまだ気付いていない新たな知見を見出すような、お客様に対する「情報優位性」を如何に築き上げるかが金融機関にとって重要な課題になりつつある。
このようななか、2026年5月25日に開催されたSociety5.0研究所主催の第20回講演会では、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社データアナリティクス技術開発部長の井口亮氏による「金融機関におけるデータアナリティクスの進展」と題した講演が行われ、金融ドメインにおけるデータアナリティクスの特徴やアプローチの最前線が紹介された。金融機関では、データアナリティクスが「意思決定力の強化」、「マーケティング力の強化」、「業務の効率化」、「リスク管理の強化」など、多方面で活用される。このデータアナリティクス業務は、近年の「分析技術の高度化」と「分析データの多様化」の2つの要因により、飛躍的に発展しつつある。
まず、「分析技術の高度化」の背景として、計算機の演算能力の大幅な向上が挙げられる。半導体の性能向上や並列処理技術の進展により、この40年間で高速計算機の演算能力は数十億倍になったとも言われる。(80年代のスーパーコンピュータ、Cray X-MP/48の演算速度が約941MFLOPS、2025年のスーパーコンピュータ、El Capitanは約1.8 ExaFLOPSと言われる。)このため、人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」と呼ばれるAIモデルの能力が飛躍的に進化し、2022年11月にChatGPTが世に出回って以来、生成AIなどの大規模言語モデル(LLM; Large Language Model)を始めとするAI分析技術が飛躍的に進化した。また、分析対象となるデータも、従来の数値データに加えて、文字情報や音声、画像情報などと多様化し、「ビッグデータ」と言われるとおり、その量は爆発的に増えている。
井口氏は、既存の生成AIにRAG(Retrieval-Augmented Generation)という技術を用いて、社内独自の情報を追加してカスタマイズできることや、AIが修得した知識を人間が好む形式で出力させるための技術(Supervised Fine Tuningやアラインメント)等を紹介し、世界の金融機関がAIや機械学習をマネーロンダリング検知や不正対策、営業支援や顧客対応、資産運用業務の意思決定支援、保険支払い判断や貸出の際の与信判断、業務効率化やリスク管理など、様々な分野で既に活用しつつある様子を報告している。そして、金融機関においてAIを活用する際には、AIの性能に加えて、信頼性・公平性・プライバシー保護・検証可能性など、様々な要件を満たす必要があることを指摘している。
講演会には、成蹊大学の学生、教職員、そして武蔵野市民など計121名が参加したが、講演後も活発に質疑応答が行われ、金融機関におけるデータアナリティクスに対する関心の高さを伺わせた。このような技術的な進展が金融サービスをどのように進化させるか、今後の金融機関の発展を楽しみに見守りたい。