成蹊大学Society 5.0研究所開設5周年記念講演会(2025年10月11日開催)
「上空100キロメートルの向こう側:地球と宇宙の境目の科学」
「Society 5.0と宇宙:未来を切り拓く技術と人類の挑戦」
成蹊大学理工学部理工学科データ数理専攻4年 小倉 諒平
今回の講演会では、地球と宇宙を隔てる境界領域に潜む科学と、宇宙開発がこれからの社会にもたらす現実的な価値について学びました。それは、テクノロジーの進歩を示す場というだけではなく、人の協働と総合的な力が未来を形づくるという、Society 5.0が描く世界観に通じる内容でした。
前半は、地上から100km付近、いわゆるカーマンラインで観測される現象について紹介されました。この領域は地球と宇宙の性質が交錯する特殊な場所であり、太陽からのプラズマが大気に影響を与える「宇宙天気」が日常生活に影響を及ぼす可能性が指摘されていました。特に、電波障害の原因となるスポラディックE層の発生予測は、まさにそれを象徴する例でした。かつて「未知の領域の探求」にとどまっていた宇宙物理が、いまや通信インフラや航空航行を支える社会技術へと進化している事実に大きな衝撃を受けました。宇宙の現象を理解することは、人間社会の安全性と効率性を支える基盤となり得るという視点は、科学研究の意義を新たに捉え直すきっかけとなりました。
後半では、宇宙開発が生み出す技術革新とその社会的波及について解説されました。再利用型ロケットに代表される輸送技術の進化、資源循環システムの確立、水や酸素の極限リサイクル技術など、宇宙空間で必要とされる仕組みは、持続可能社会の実現に直結するヒントに溢れています。宇宙開発は「地球外活動」ではなく「未来社会の縮図」であり、そこで培われるテクノロジーは地球社会に応用されるという視点は非常に刺激的でした。
同時に、宇宙空間での挑戦は技術の問題だけでは終わりません。限られた空間で長期間過ごすための心理的耐性、ストレス管理、コミュニケーション能力、そして多様な専門性を持つメンバーが協力し合うグループ力が不可欠であることが強調されていました。失敗が許されない環境で、人同士が信頼し、合理的な判断を積み重ねる重要性は、宇宙だけでなく現代社会そのものにも通じます。高度なテクノロジーを扱いながらも、最終的な成果を左右するのは「人」と「協力」であるという視座は非常に印象深かったです。
今回の講演を通じて、宇宙は遠く隔たった非日常空間ではなく、私たちの未来社会を先に生きているフィールドなのだと感じました。宇宙科学が社会インフラを支え、宇宙技術が地球の課題解決につながり、そして人間の心理・協働能力がプロジェクトの成否を決める。つまり、未来をつくるのはテクノロジー単体ではなく、人の力と技術の最適な組み合わせであるということが鮮明になりました。
データ数理を学ぶ者として、観測データや行動データを活かし、技術と人間が互いを高め合う社会基盤の構築に貢献したいと考えました。社会が複雑化するほど、数値の力と人間理解の両方が重要になる。今回得た学びを糧に、未来社会を支える橋渡し役として成長していきたいです。