社会発信

2022年度開催イベント
アフターレポート

成蹊大学Society 5.0研究所主催 シンポジウム&ミニ・コンサート(2022年11月2日開催)
「未来社会における芸術――法律・ビジネス・実演の視点から」

成蹊大学法学部法律学科 3年 本多 真郷
 

未来の芸術はどのようなものになるのか。NFTアートが生まれ高額取引がされるようになり、さらにはAIによって絵画の作成も可能となった現代においてこのようなデータ上でのアートの価値は高くなっている。

NFTアートには数十億の値段がつくこともあるほどにその市場的な価値は上がっている。今までデジタルデータが複製可能なものであったのがNFTに唯一無二性が生まれたことによって価値が上がったのである。また、その背景にはメタバースの発達もある。未来では仮想上の空間での生活が営まれるほどにまで至るとされる仮想空間によって今までは自分でデータを所有して鑑賞する以外の楽しみ方がなかったNFTアートが仮想空間を通して他人に見せることができるようになったためアートとしての楽しみ方が増えたのである。仮想世界であっても唯一無二であり、価値のあるものを持ちたいという人たちにとってこの新しいアートは今後さらに価値が上がっていくものなのだ。また、AIはアートだけでなく音楽の分野にも裾野を広げている。AIがピアノやヴァイオリンを弾くのだ。

  • 成田達輝氏は「音楽は元来人間同士で音を奏でるからこその不完全さや偏りが美しく魅力的なのだ」と言う。音がずれているからそれを合わせる。それも一つの選択だがそのずれこそが人間だからこそ生まれる物でありそこにこそ美しさがある。機械はただ正確に音を奏でるだけであるが、人が生むひずみだからこそ、不完全だからこそ見える景色があり、そこに芸術の真髄が現れると言う。また、小池藍氏も「アートには余白の取り方のうまさが大きく、そこに芸術家のセンスが表れるがAIはこの余白を扱うことが苦手」と言っている。これらから分かるように、現段階でのAIは芸術の真髄に届くにはまだまだ先が長く、このAIが唯一性を獲得することで作品としての(芸術家としての)価値を得ることは当分先になりそうである。

  • しかし、先述のようにAIの市場的な価値は上がり続けている。これには芸術家としてのAIの価値を見込んでのことだが、私は将来AIが人間の芸術に革新を起こすと思う。現在の日本では世界的にAIによる学習や研究を自由に行うことができるようになっている。それは法律でAI学習のためなら権利者に不利益を生じさせない範囲で著作物を使用できるようになっていることなどが挙げられる。これはリーガルデザインと言い、新しい法整備だけでなく法解釈や共同規制といった既存のルールを疑って時代の変化と共に新しいルール作りを行っていく考え方が元にある。水野祐氏は「法とは生活を豊かにするためのツールであって、守るものではなく使うものである。」と述べている。例えば音楽がCDやウォークマンで聞けるようになり今ではスマートフォンで誰でもいつでも音楽を再生できる。このような技術によって音楽家たちは昔と比べて気軽に最新の音楽を聴いて研究をすることができる。このように技術の革新は芸術分野において時にはその普及や研鑽に広く活用できるため、AIの生み出した作品もいつか人間の芸術作品に反映されるようになるのではないだろうか。それはNFTアートのように数十年前から見たら想像もできないような形かもしれない。そのようなまだ知らない芸術を切り拓く可能性をAIは持っていると私は思う。

  • シンポジウムの後半では成田達輝氏のヴァイオリンコンサートが開催された。バッハから始まりバロック期から現代の若手作曲家によるポップス調の曲と幅広いジャンルで300年の音楽家たちの想像の源を一時間で追体験できる大変豪華なプログラムだった。成蹊大学本館大講堂の天井の高い構造を存分に活かした奥行きのあるサウンドが響くミニコンサートで、サプライズゲストとしてフラメンコダンサーの長嶺ヤス子氏を招いて二人が創る世界に惹きこまれる時間となった。

    私は特にタルティーニ作曲「ヴァイオリンソナタト短調『悪魔のトリル』抜粋」とパガニーニ作曲「24のカプリスより第24番イ短調」に心惹かれた。悪魔のトリルでは長嶺氏の妖しさを感じる舞と成田氏のヴァイオリンから奏でられるトリルとが組み合わさり、舞台上にタルティーニが夢で見たという美しいヴァイオリンを奏でる悪魔が顕現したかのような空気が講堂を支配していた。24のカプリスでは前曲から一転、ハイテンポな立ち上がりからパガニーニ作曲ならではの様々な高度な演奏技法を駆使したフレーズが印象的で、本館大講堂全体を使って2名の情熱的な芸術家が一つの作品を形作っていく、シンポジウムで論点に上がっていたAIにはできない、人間だからこそ生み出せる空間を構築していた。このような素晴らしい芸術に実際に触れると、成田氏の言うように結局は人間の作品が一番心動かされるものとして完成するのだろう。将来こういった素晴らしい芸術を人間が生むためにAIが活用されるようになると私は思う。