社会発信

2021年度開催イベント
アフターレポート

成蹊大学Society 5.0研究所主催 第3回講演会(2022年3月1日開催)
ファッション業界に新潮流 〜DX/データ活用で実現するサブスクリプションビジネスでの挑戦〜

成蹊大学経営学部総合経営学科 2年 藤原菜緒

  •  発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する。これは、株式会社エアークローゼットの掲げるミッションである。airClosetは、代表取締役社長 兼 CEOの天沼氏をはじめとする3名の共同創業者がスタートした日本初・国内最大級、女性向けの普段着に特化した提案型のファッションレンタルプラットフォームで、気に入った服は何枚でも購入可能、返却期限もなく、クリーニングの必要もないという新たな形態のサービスを提供している。このようなビジネスモデルの裏には、「ライフスタイルを豊かにする新しい当たり前を作る」という一貫した強い想いがある。airClosetが創業当初主なターゲットとしたのは女性である。なぜなら、女性は仕事や妊娠・出産などのライフステージの変化によって時間の価値が高くなっていくため、自分のファッションに対する感情は"ワクワク"よりも面倒くさいという面が大きくなってしまいがちだからである。天沼氏はそうした状況を問題視し、airClosetのサービスでは服を選ぶ上で面倒くさいとされることをなるべく減らし、貴重な時間のなかでもファッションとの出会いを純粋に楽しめるようなものにしている。
  •  このようなビジネスを実現可能にするのがDX/データ活用を中心に考えたサービスづくりである。Society 5.0の時代に改めて注目を集めているDX/データ活用だが、実際のところ日本は非常に遅れを取っている。商品在庫管理などの事務的な活用ばかりで、そこで得られたデータを活かしたシステム開発や業務フローの改変にまで手を広げられている企業は必ずしも多くない。しかしながら、エアークローゼット社では社員の約3分の1をエンジニアが占めており、サービスを提供するためのサイトやアプリの開発はもちろん、在庫管理システムの構築や消費者データの分析、AIの開発なども自社のエンジニアやデータサイエンティストが行っている。さらに、その各種データはスマートフォンですぐに確認することができるという。顧客の感動体験を創造し続けるためには進化が必要であり、それをメンバー全員が理解して行動しているのである。
  •  ここからは、具体的にどのようにデータが活用されているのか、2つの事例を取り上げたい。1つ目は、フィードバックデータの分析である。現在、airClosetの会員数は約70万人を超え、コーディネートの提案回数も400万回を超えている。そのため、スタイリストが一人ひとりの顔の印象や要望に合うようなコーディネートを作るには膨大な時間がかかってしまう。反対に、利用者側も300名を超えるスタイリストから自分好みの人を見つけるのは難しく、"面倒くさい"時間になりかねない。そこで考えられたのが両者をサポートするAIである。airClosetでは、利用前に好みの洋服の系統や顔写真を送り、洋服を返却する際にも着心地やスタイリングの評価を送ることができるようになっている。これらの膨大なデータをAIに学習させることで、スタイリストにコーディネートのヒントを与えたり、利用者におすすめのスタイリストを提案したりすることが可能となっている。
  •  2つ目は、仕入れ・在庫管理への活用である。前述の通り、airClosetは洋服の返却期限もクリーニングの必要もないサービスであるため、レンタル中の洋服がいつ返却されるかの正確な予測を立てなければ在庫が足りなくなる危険性がある。また、洋服によってレンタルの頻度が異なるため、提供終了となるまでの日数も細かく変わってくる。そこで活きてくるのがデータである。これまでのレンタルで得たデータをもとに、1サイクルにかかる期間やレンタル状況を分析することによって、仕入れ数の調整から在庫の置き場所まで最適かつ効率的な管理がなされている。さらに、データから生地に適したクリーニング溶剤の開発まで行っており、レンタルする衣類を衛生的に長く着ることができる工夫もしている。
  •  こうしたサービスの提供姿勢から伝わってくるのは、データは手段に過ぎないということである。返却期限なし・買取可能・クリーニング不要といったこれまでのサービスでは不可能であったことを実現しているのはすべて、「発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する」というミッションを果たすためである。それを叶えるために利用したのがデータであり、手段である。今一度思い返してほしい。目の前のデータを分析することで満足して終わってしまってはいないか、そもそも、貴重なデータを取りこぼしてしまってはいないか。そうした意味では、成功するためにはデータの活用だけでは不十分であり、何のためにデータを活用するのかという強い目的意識が欠かせないのかもしれない。