■主催
成蹊大学Society 5.0研究所
■開催日
2025年10月21日(火)
■時間
15:00~16:40
■会場
3号館203教室
■参加者数
45名
■主催者代表
髙橋 脩一(成蹊大学Society 5.0研究所所員)
羽賀 由利子(成蹊大学Society 5.0研究所所員[[2025年度前期])
2025年10月21日、弁護士の関真也先生(関真也法律事務所代表)をお迎えし、「現実×仮想の世界における法律~未来の世界で何が起きるか?~」と題する講演会を開催しました。
関先生は、日本及びNY州の弁護士であるのみならず、上級VR技術者の資格もお持ちであり、法律と先端技術に通暁する講師の先生による大変深い内容の講演となりました。
現実と仮想という二つの世界が交差する状況で生じる法律問題は多岐にわたりますが、今回のご講演では、その中でも「技能・感覚のデジタルコンテンツ化」を中心として、特にモーションデータと声の権利を題材に、生じ得る法律問題やそれに対して考えられる解決策についてご説明いただきました。
人や物の動きを数値化するモーションデータは、アニメーションのキャラクターやアバターの動き、医療やスポーツでの動作分析など、様々な分野で利用されています。
では、プロのスポーツ選手や料理人といった人の動作が数値データに変換され、誰にでも再現できるようになったとすると、その人は自分の動作について法的に保護される権利・利益を有するのでしょうか。プロのスポーツ選手や料理人は、その動作ができるようになるまでに長い時間をかけ、たくさんの訓練を積んでいますが、これは守られるべきでしょうか。守られるとすれば、どのような法的理論によることになるのでしょうか。
味や匂い・感触という感覚も、近年の技術ではデジタルコンテンツとなり得ます。
すると、ある仮想空間で料理を食べるという体験が可能であるとして、その料理の「味」が他の人に無断で用いられた時の法的問題が考えられます。このようなデジタル化された味覚・嗅覚・触覚は法的保護の対象となるでしょうか。なるとすれば、誰の権利になるのでしょうか。味や匂いは、受け取り手の体調や感覚によっても感じ方が変わる可能性がありますが、特定することはできるのでしょうか。
現在では、生成AIを用いて、特定の人の声そっくりの合成音声を作り出すことができます。
それでは、ある特定の声優の音声データを学習させた生成AIモデルを使って、合成音声で別の作品が作成された場合、その声優は自分の声についてどのような権利を主張できるでしょうか。
関先生からは、このような具体的な問題を提示しながら、現在の法律ではどのように対応されるのか、という詳細な説明をいただきました。他の国ではどのような事例が実際に生じているか、といった情報もあり、実際に最前線で活躍されている法律家の活動を垣間見ることができました。そして、法律を変えるならばどのように変えるべきか、といった点まで言及され、とても実り多いご講演となりました。時折交じえられるジョークに聴衆からは笑いも起きるなど、終始和やかな雰囲気でした。
質疑応答の時間には学生や地域の皆さまから寄せられた様々な質問に対して関先生からさらに説明が追加され、最後まで活発かつ充実した講演会となりました。関先生が最後に指摘された、「「文化」に対する人間の関わりをどこまで考慮するか」という点は、技術の発展で大きく変わる社会の中で日本のこれからの政策を考える上でも重要な論点であったと思われます。
ご登壇くださった関先生、ご参加くださり多くの質問をくださった市民及び学生の皆さま、本講演会開催に当たり様々に尽力くださった事務局の皆さまに厚く御礼申し上げます。
(成蹊大学Society 5.0研究所所員[2025年度前期] 羽賀 由利子)