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<報告>成蹊大学Society 5.0研究所 『未来法学』刊行記念シンポジウム「法学者の描く未来予想図――企業の活動・市民の生活」

■主催
成蹊大学Society 5.0研究所
■開催日:
2022年11月26日(土)
■時間:
14:00~16:10
■会場:
成蹊大学6号館301室
■参加者数(申込者数):  
90名(124名)
■主催者代表:
渕史彦(成蹊大学法学部准教授)

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成蹊大学法学部スタッフを中心とする研究グループ「未来法学研究所」は,「2030年の日本社会における人のつながりと法」をテーマに共同研究をおこなってきました。その成果が論文集『未来法学』として刊行されたのを記念してシンポジウムを開催し,多くの方々にご来場いただきました。

第1部では,北川徹 教授の司会のもと,原昌登 教授(労働法)・湯原心一 教授(商法)・八木敬二 専任講師(民事訴訟法)の3名が「企業活動とステイクホルダー」をテーマにパネルディスカッションをおこないました。
近時の企業活動のキーワードとして「E(環境)S(社会)G(ガバナンス)」への顧慮が重視されていることをどう受けとめるか,という北川教授の問題提起に対して,湯原教授は,株式会社のG(ガバナンス)の観点からステイクホルダー(利害関係者)としての労働者に着目し,労働者との良好な関係は会社法がめざす株主価値の最大化にとっても重要なので,経営者が株主価値向上策の一環として労働者を一定程度保護するという選択肢もいちおう考えられるものの,経営者が株主の利益と労働者の利益を天秤にかけて結局労働者が保護されないという状況が生じうる点や,権利侵害を受けた個々の労働者が会社に対して是正を求めるのがしばしば困難な点が問題である,と指摘しました。
これに対し八木講師は,裁判所そのものは企業のステイクホルダーではないが,必ずしも組織力の強くない労働者の利益を裁判所ならば尊重できると指摘し,E(環境)への顧慮をはじめとする市場(ひいては企業活動)の健全性を維持するための,一つのプラットフォームとして民事訴訟が機能する可能性を論じました。
原教授は,労働法は,労働者の生命・健康・人権といった,本来お金に換えられないものを守るのが基本的な役割であると指摘したうえで,敢えて「お金の問題」の平面で論じたとしても,S(社会)への顧慮とみることもできるパワハラ対策など労働法上の施策は,職場の雰囲気を良くして生産性を向上させることを通じて,企業価値にとってもプラスになる面があるとコメントしました。

第2部では,金光旭 教授の司会のもと,高橋朋子 教授,建部雅 教授,三田奈穂 客員教授の3名が「市民生活・家族生活と個人」をテーマにパネルディスカッションをおこないました。
冒頭,金教授から「個人の人格権の平等な保有と自由な行使」という全体的視点が示されました。これを受けて,高橋教授は選択的夫婦別氏制の導入をめぐる日本社会の反応の鈍さを取り上げ,氏の選択の自由は個人の人格権の尊重にかかわる問題であると指摘しました。
建部教授は,子供と関わる者の前科情報を得ることができる制度の諸外国における整備状況と,日本における同様な取り組みの遅れを取り上げ,日本社会では個人の人格権を根拠として個人情報やプライバシーの保護が一面的に強調されてきたが,それとは緊張関係に立つ,子供の健やかな育成環境の確保という視点も,個人の人格の健やかな形成・保持の前提として同様に重視されねばならないと論じました。
三田客員教授は,自由民権運動家の馬場辰猪による安楽死肯定論を取り上げ,彼の議論が,不治の疾病に罹患していると診断されたときには本人の決心により医師の処方する薬物を用いた生命の短縮ができるという選択権と,参政権を通じて安楽死制度を実現するという政策に対する選択権との,二つの「自己決定」の思想によって支えられていたと読み解きました。
聴衆の方々との質疑応答では,特に夫婦別氏制について多くの質問が集まり,賛否両論入り乱れての活発な議論となりました。

ご参加くださいましたみなさまに感謝申し上げます。



(成蹊大学法学部准教授 渕史彦)