■主催
成蹊大学Society 5.0研究所
■開催日
2024年10月15日(火)
■時間
15:00~16:45
■会場
3号館102教室
■参加者数
114名
■主催者代表
羽賀 由利子(成蹊大学Society 5.0研究所所員)
2024年10月15日、北岡元様(元在エストニア日本国特命全権大使)、Raul Allikivi様(元エストニア経済通信省局次長)及び曽根原千夏様(日本エストニア友好協会理事)をお迎えし、「電子国家エストニア:日本が学べること」と題する講演会を開催しました。
エストニアはバルト三国の最北に位置し、面積は九州程で人口密度も低い小国ではありますが、最先端の「電子国家」として知られ、世界中から注目を集めています。ほぼすべての行政手続きをオンラインで完結でき、政治手続きでもデジタル技術を駆使して電子投票などが実現している電子国家エストニアについて、同国に精通する方々から貴重な情報を提供いただきました。
曽根原様からは、地理的関係から様々な国に蹂躙されたエストニアの苦難の歴史、そこから独立を回復した人々の強さ、歴史的背景から交錯する複数の文化など、エストニアについて広くご紹介いただきました。小国として激動の世界を生き延びていく中で、電子国家として技術の先端を走りつつも、アイデンティティとしての文化、とりわけ歌や料理、言語を大切にするエストニアの人々の努力が示されるご講演でした。世界一の電子国家となりつつも、幸福な生活には何よりも人々の健康が大事、という最近のエストニアの意識もまた、わが国として学ぶ点が感じられました。
北岡様のご講演では、エストニアの歴史を踏まえつつ、どのように電子国家を確立していったのか、その沿革が明快に示されました。電子国家に至るまでの道のりは決して平坦なものではなく、困難のたびに苦労をしつつも知恵と工夫でそれを乗り越えていくエストニアの人々の努力には感じ入るものがありました。単なる技術システムの問題だけではなく、人々の意識改革も含めてDX(デジタルトランスフォーメーション)である、電子国家の達成には人々からの信頼をいかに獲得するかが最も重要である、というご指摘は、電子化に向けた様々な施策が打たれつつもなかなか進まない日本にとっても、学ぶべき点が多くありました。
アリキヴィ様のご講演は、電子国家エストニアを作り上げたお立場から見る情報が多く含まれた興味深いものでした。歴史的・地理的に厳しい立場におかれ、様々な制約がありながらも、自分たちの力でシステムを組み上げ、教育を通して人々の意識を改革し、必要な情報は不利なものを含めてしっかりと説明し、本当に使える制度を作り上げていった経緯は、ドキュメンタリー映画を見ているような感覚ですらありました。そして現在でも人材の育成に力を入れ、また、スタートアップを奨励して、挑戦することを止めない姿勢はきわめて印象的なものでした。「絶対失敗しない」の前には多くの失敗が積み重ねられてきたはずだ、とのご指摘には、早いうちに失敗しておくことの重要性が強く示されていました。
参加者からの質問をきっかけにご登壇者からさらに情報が追加されるなど最後まで情報が充実しており、本講演会を盛況に終わることができました。これからの情報社会を生き抜いていくにあたり、日本が学ぶべき点も多く見いだされたように思われます。ご登壇くださったお三方及びご参加くださった市民及び学生の皆さまに厚く御礼申し上げます。
(成蹊大学Society 5.0研究所所員 羽賀 由利子)
右:北岡 元氏