国際文化学科の学び

学術論文を書く

卒論執筆の事例から:執筆者インタビュー

『NANA』とアセクシャル理論

ー2人のナナとジェンダー・セクシュアリティ

(Asexual Intimacy as a Way of Life : A Queerly Asexual Reading of NANA by Ai Yazawa)

―執筆された卒論内容を簡単に教えていただけますか?
W・M:『NANA』の主人公・大崎ナナと小松奈々という2人の女性間の関係性を、クィアでアセクシュアルな視点から分析しました。2人の絆は明らかに物語の軸としての役割を果たしていながら、それと同時に他の異性愛の関係性に埋もれてしまっているという矛盾を抱えているんです。卒論は頑張って英文で書きました。
―その矛盾についてどのような理論でアプローチしたのでしょうか。
W・M:LGBTQなど、異性愛・シスジェンダー(出生時に診断された性と性自認が一致する)ではない、多様で流動的な性的指向やジェンダー・アイデンティティを持つ性的マイノリティについて論じるクィア理論も参考にしつつ、人が他者に惹かれ、他者とつながりを持ちたいと望むことはその他者を性的に欲望していることを必ずしも意味しないのだと論じるアセクシュアル理論を使い、2人の関係性が非異性愛であるだけでなく、そもそも性愛(・恋愛)を伴わない関係であること――お互いと性的行為を持つことも、恋愛関係になることも望んでいないこと――が、2人の関係性をキャラクター達にとっても、読者にとってもややこしいものにしているのではないかと考えました。『NANA』はこの2人の関係性の描写を通じて、異性愛・性愛規範から逸脱した関係性のあり方や、そうした関係性を中心にした生き方の可能性を示しているのではないか、と論じました。
―同作品を初めて読んだのはいつ頃ですか?また、同作品の魅力はどんなところだと思いますか?
W・M:ロンドン留学中の2021年12月、日本にいる高校時代の友達と久しぶりに話していた時に、熱中しているものとして教えてもらったのがきっかけです。『NANA』にはイギリス発の洋服ブランドVivienne Westwoodが登場することもあり、話題に上がったんです。『NANA』には読者を引き込む心情描写や端正な絵柄などたくさん魅力がありますが、私は主人公2人のつながりが持つクィアネスがやはり最大の魅力だと思います。
―アセクシュアリティ理論やクィア理論に興味をもったきっかけを教えてください。
W・M:政治家や著名人による同性愛やトランスジェンダー嫌悪・差別的な言動が絶えず、生きづらさを感じることの多い日々の中で必要不可欠な存在となったのが、クィアな人物や関係性を描いたテクストでした。様々な小説、映画に触れる中でクィア理論に行き着き、留学先で初めて勉強したんです。クィア理論は、人のセクシュアリティやアイデンティティは流動的で多様で、何か固定の枠組みに当てはめることはできないのだという見方のもと、それでも人々の生き方や他者との関係性のあり方を画一的に維持・管理しようとする権力構造を批判します。アセクシュアル理論は、異性愛と同じように自然視されがちな性的欲求や性的行為を前提としないことで、クィア理論の範疇をさらに広げようとする試みとして興味深いものだと考えています。
―今後のキャリアについて何か考えていることはありますか?
W・M:クィア理論をさらに学ぶために、イギリスの大学院で修士課程に進学することを目指しています。近年日本でもジェンダー・セクシュアリティ研究が盛んになっている中で、テクストのクィア・リーディングは注目を集めています。クィアな人々にとって「居場所」になることも、一般的に人々がセクシュアリティやジェンダーというトピックに興味を持つきっかけになることも多いのがテクストです。そうした重要性を持つものを対象にした研究に携わることができたらいいなと考えています。

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