新理工学部 
未来どうなるの?研究部

第1回研究テーマ

「未来どうなるの?研究部」の質問に答えてくれるのは、
生体化学の研究者 久富寿先生とプラズマ科学の研究者 村上朝之先生。
この2人の先生の研究室は、生体医療とプラズマ物理をかけ合わせた「新しいがんの治療法の開発」をめざして共同研究をしています。

未来どうなるの研究部グラレコ1-1
未来どうなるの研究部グラレコ1-2

Conversation

  • 生体化学

    応用化学専攻
    細胞分子デバイス
    研究室

    久富 寿 教授

    久富研究室では、がんと炎症のメカニズムの解明に取り組んでいる。研究目標は、副作用の少ない新しい抗がん剤の開発。「妄想で構わない。夢は大きく!」枠にとらわれない発想を大事にしている先生。

  • プラズマ物理

    電気電子専攻
    プラズマエネルギー
    デザイン研究室

    村上 朝之 教授

    村上研究室では、原子・分子レベルの小さな世界を扱うプラズマ科学とエネルギーシステムを研究。「今何が起きているかがわかれば、次が見えてくる!」好奇心旺盛で、日々研究に打ち込む先生。

Q1

「新しい病気との闘い、
これからも続きますか?」

続く。けれど“科学の目”を
持てば不安は消える。

久富先生

人類の感染症などの歴史を振り返ると、病気との闘いは今後も続くでしょう。新型コロナウイルスについていえば、他のウイルスと同様に変異株が出てくることで弱毒化して、いずれパンデミックは収束する。むやみに不安に思うよりも、世の中にあふれる情報をこれは正しいかどうかと考えることが大切です。

村上先生

インターネットやSNSで検索すればさまざまな情報があふれています。すべてを鵜呑みにするのではなく、それが科学的に正しい情報かどうか判断することが大切ですね。

久富先生

これは正しいのか正しくないのかという疑問から情報を判断する“科学の目”を持つと、惑わず、過剰なストレスや不安を感じずにすみます。

村上先生

確かにそうですね。その判断基準を持つために必要なのが、学びです。

今を知ると、次が見えてくる。

久富先生

学びはずっとつながっていて、過去の偉人たちによる知の集積が今の生活を支えているといえます。だから、さまざまな学びを通して、確かな“科学の目”を持つことが重要ですね。

村上先生

理工学系の学びに共通していえるのは「近い未来を予測する」ということ。過去からの集大成である今を知り、今日よりも明日を良くするために予測する。私が研究しているプラズマ科学もそうです。今をよく知ると、次が見えてきます。

久富先生

病気との闘いといえば、未来でもきっとなくならない病気の一つは、がん。私たちは新しいがんの治療法の共同研究に取り組んでいます。これは私が研究する生体化学と村上先生のプラズマ科学が手を組むという新しい試みです。

村上先生

この共同研究は、私から久富先生にアプローチしたのが始まりでしたね。実は10年ほど前にイギリスで研究していた際に、プラズマ科学を医療に役立てようと生体化学の分野と共同研究が行われていることに衝撃を受けたんです。日本に帰国してから、同じ大学の理工学部に生体化学の久富先生がいることを知って、ぜひこの新しい研究を日本で一緒にやりましょうと提案しました。

久富先生

そうでしたね。プラズマ科学という異なる分野の新しい視点が加わることで、私の専門分野だけでは考えられなかった思いがけない発見や発展がありました。

Q2

「研究をコラボすると、
どんなメリットが
あるんですか?」

プラズマ照射による
新しいがん治療法の開発へ。

久富先生

私たちの共同研究は、プラズマ科学を医療の分野に活用する新しいがんの治療法の開発です。この新しいがん治療のポイントとなるのが、がん細胞が死滅するタイミングを早めること、つまり細胞死の誘導(アポトーシス)です。そのためにプラズマ照射によってがん細胞が死滅する反応経路、つまり“がんの死滅スイッチ”を探して、活性化するという研究を行っています。これは1つの分野だけでは辿りつけなかった研究です。

村上先生

久富先生の研究室では、プラズマの照射時間や照射距離、使用する薬剤などを変えながら“がんの死滅スイッチ”が入る条件を見つける実験と実証を積み重ねています。そして、私の研究室では、その結果から細胞内のさまざまな生体化学反応がなぜそうなるかを解析(数理モデリング)し、次の流れを予測(数値シミュレーション)します。

久富先生

今まではさまざまな実験を繰り返していましたが、2つの研究室がコラボレーションすることで、より効率良く進められるようになりました。

村上先生

物理研究では実験結果を解析してどのように研究を進めればよいか、次に進む方向を提案します。だから、たとえば、薬剤を何種類も使って試していた実験も数理的な研究で必要な薬剤を絞り込んだり、ムダな薬剤を排除できたりする。次の一手を予測することでより効果的な実験に結びつきます。

久富先生

その他にも、たとえば6時間、12時間、24時間と進めた実験があるとすると、今まではその時点の結果しか見ていなかった。でも今では、村上研究室がそのプロセスをシミュレーション動画としてコンピュータ上で視覚化してくれる。全体像が見えてくるから正解に早く近づけます。

異分野コラボレーションでジャンプ、
フロントラインへ。

村上先生

異分野が手を組むことは、新しいゲームのようなものかもしれません。失敗もあるけれど、一気にジャンプすることもある。生体化学とプラズマ科学のコラボレーションは、誰もやっていないことを切り開く、まさにフロントラインの共同研究だといえます。

久富先生

共同研究によるフィードバックはたくさんありますね。専門分野の垣根を取り払うと、異分野の考え方に出会う。自分の専門分野では当たり前のことが、他分野では当たり前ではないと気づいたりします。このように自分の考えが必ずしも正解とは限らず、予想外の発見があるからおもしろいですね。

村上先生

私たちの大学では、すべての分野がワンキャンパスで研究しているということも大きなメリットですね。まさにスープの冷めない距離で、最新の情報を交換し合い、リアルに刺激し合えるわけですから。

久富先生

それに、物理や数学のことなど聞きにくいことも何でも聞ける(笑)。

村上先生

私も医学知識、化学物質の効果など専門分野以外のことはまるで知らないわけで、教えてもらえる。知らないことがあるとワクワクするんです(笑)。

Q3

「病気のない未来、
ありえますか?」

病気はなくならないけれど、
様変わりする。

久富先生

医療の進歩で、今の高校生世代の平均寿命はおそらく100歳になるでしょう。そうなるといろんな病気にかかる可能性も高い。でも、新薬や新しい治療法が次々と生まれていきます。たとえば、C型肝炎やB型肝炎への感染が減って、それらが原因となる肝臓がんは激減しました。20年前は死の病だった慢性骨髄性白血病(CML)も治療薬が開発されたことで今ではほぼ100%治る病気になった。

村上先生

その意味では、病気はなくならないけれど、医療技術の進歩で社会は大きく様変わりしていくことは確かですね。また、最近でいえば、コロナ禍ならではの医療の進歩もありました。

久富先生

そうですね。実際にコロナ禍で、今まで最短でも4年はかかっていたワクチンが1年でできたことはすごいことですね。メッセンジャーRNAによって将来的にワクチンの開発が一層加速し、さらに他の病気の治療にも利用できる可能性があります。

村上先生

同じように、プラズマにも無限の可能性があります。いずれ私たちが研究を進めているプラズマ照射によるがん治療が実現し、普及していくでしょう。さらに免疫機能を活性化するといったプラズマの作用は、がん以外の治療にも役立っていくと思います。

久富先生

プラズマを照射することでがん細胞だけでなく、他の細菌も死滅させることができるようになり、プラズマ医療による治療が実現するでしょう。

村上先生

さらに明るい材料としては、プラズマ医療は空気とわずかな電力だけで行うことができるので、投資がほぼいらない。現在の高額で巨大な放射線治療の機器ではなく、安価でハンディな医療機器が実現するのも夢ではありません。

久富先生

そうなると、大病院だけでなく小さな町のクリニックでも治療ができるようになるでしょう。人生100年時代。プラズマ医療によって叶えられることはどんどん増えていくはず。私たちの研究は、そういった明るい未来につながっていると信じています。

Q4

「私たちが今、
できることは何ですか?」

妄想でもいい、夢は大きく。

久富先生

まずは、さまざまな研究分野があることを知ってほしい。医療分野の中でも医師の仕事だけでなく、生体医学や医療工学といった研究分野があります。また、医療以外でも、食や化粧品など生活に結びつく研究分野が無数にあります。

村上先生

遠い未来より、至近の未来を考えてみるといい。高校時代までの総合的な学びはしっかりと栄養になりますし、足腰を鍛えている時期です。大学では自分のいいところ、やりたいことをできるだけ早く見つけて、自由にのびのびと学んでほしい。

久富先生

誰かのために学ぶという意識を持ってみるのもいいですね。
自分の両親やおじいちゃん、おばあちゃんが100歳まで元気に生きるために、何ができるかを考えてみるのはどうだろう。明るい未来のために、みなさんの力が必要です。

方向性を示す、ドライバーになろう。

村上先生

コロナ禍によって今はどうしても行動に制約があります。もどかしかったり、気持ちが前向きになれなかったりすることもあるかもしれません。しかし、この状況は逆にチャンスともいえます。次に飛ぶためにしゃがんでいる時期だと考えればいい。なかなか前に進みにくくても、努力を重ねれば、状況が変わった時に成果が花開くはずです。心にリミッターがあるなら、まずはそれを外そう。

久富先生

そう、自己限定は罪。妄想でもいい、夢は大きく広げることです。とにかくいろんなことに挑戦してほしい。その中で楽しいと思うことを続ければ、努力が努力ではなくなる。それがやりたいことになっていきます。

村上先生

私も大学時代にプラズマ科学に出会って、自分の興味や関心に沿って好きなことを研究しています(笑)。自分に合うものを見つけたら、その分野を強く引っ張っていく気持ちを持つことですね。アイデアを出して、方向性を示していく。みなさんがそれぞれ、いろんな分野のドライバーになってほしい。これからどの大学に入学しても、そこが始まり。そこから何でもできます。トップランナーにもなれるはずです。

久富先生

ポジティブな思いがあれば、未来は変えられる。より良い未来のために、大学で一緒に研究しましょう。成蹊大学理工学部で待っています!

※掲載している内容は2021年12月時点のものです。

Profile

  • 久富 寿 教授

    久富研究室では、遺伝子やタンパク質を利用した新規抗がん剤や、吐き気や脱毛などの副作用が少ない新規抗がん剤の開発を目指している。がん細胞の親玉である「がん幹細胞」を人工的に作成し、治療効果を測定することでがんの治療戦略の解明にも取り組んでいる。「猫の貧血治療薬」も研究テーマのひとつ。

    細胞分子デバイス研究室
  • 村上 朝之 教授

    村上研究室では、プラズマ科学とエネルギー科学に関するモデリング、シミュレーションを研究。従来の枠を越えて医療分野等への応用を目的としたプラズマの性質解明に取り組むほか、新しい技術や政策が未来の電力ネットワークに及ぼす変化を予測する至近未来シミュレーションにも挑戦している。

    プラズマエネルギー
    デザイン研究室