新理工学部 
未来どうなるの?研究部

第4回研究テーマ

「未来どうなるの?研究部」の質問に答えてくれるのは、
脳科学という分野からリハビリやスポーツに貢献することを目指している研究者、櫻田武先生。
自分の脳をコントロールすることで運動機能や認知機能を向上させる新しい訓練システムをつくっています。

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未来どうなるの研究部グラレコ1-2
未来どうなるの研究部グラレコ1-3

Interview

  • 神経科学

    機械システム専攻
    スマートニューロ
    リハビリテーション研究室

    櫻田 武 准教授

    櫻田研究室では、ヒトの運動や認知に関わる脳の仕組みを解明して新しい技術を生み出し、科学と工学の両面からリハビリテーションやスポーツへ貢献することを目指している。脳というブラックボックスの解明とその応用に挑む先生。

Q1

脳はどんな役割を
持っているの?

さまざまな脳の働きが連携して、
日常生活が成立。

櫻田先生

普段何気なく行っていることも、実は脳のさまざまな機能が関係しています。例えば、飲み物を飲もうとコップを手に取る時。コップの場所をすぐに見つけ出せる認知機能も、コップまで手を伸ばす動きを決める運動機能も、すべて脳の働きに支えられています。いくつもの脳機能の連携で私たちの日常生活が成り立っているのです。

普段は意識していないけれど、すごく複雑な働きなんですね!
先生はたくさんある脳の機能の中で、どのような研究をしているのですか?

櫻田先生

私は脳の認知機能の一つである“注意”に着目しています。例えば、足元に「頭上危険!!」と書かれていたら、足元よりも頭の上に注意を向けて、何かあれば素早く回避しますよね。注意をきちんと向けることは、適切な行動を取るための非常に重要な脳機能なのです。

たしかに注意を向けると、体も素早く動くかも!

櫻田先生

そうですね、注意機能は体の動かし方の“上手さ”にも密接に関連しています。私の研究でも、“運動するときに、より高い効果を得るためにはどこに「注意」を向けるべきか”に焦点を当てて、脳の仕組みを明らかにする研究を進めています。

先生は実際には、脳の「注意」のどんなところに着目したんですか?

櫻田先生

スポーツ心理学の分野では早くから、運動中の「注意の向け方」の重要性が指摘されていて、運動中は体の動きは強く意識せず、外の環境に注意を向けると良いと言われてきました。例えば、バスケのフリースローの場面であれば、シュートする時の体の動きは気にせず、ゴールリングの位置などに注意を向けたほうが上手くいく、ということです。
しかし私は、手首や腕の振り方など自分の体の動きに注意を向けることで運動が上手くいく人もいると考えたほうが自然ではないかと思ったのです。

つまり…人によって得意な「注意の向け方」が違うのではないか?ということですか?

櫻田先生

その通りです。実際に調査してみると、外の環境に注意を向けたほうが良い人、自身の体の動きに注意を向けたほうが良い人、それぞれ半数ずついるという結果も出ました。
つまり、脳の認知機能に「個人差」があることが分かったのです。

自分で自分の脳をコントロール

へぇ〜!スポーツや勉強の得意不得意みたいに、脳の機能にも「個人差」があるんですね。
その認知機能の個人差は、どのように役立つのですか?

櫻田先生

例えば、得意な部分をもっと伸ばしたり、逆に苦手な部分を補ったりなど、その人に合った訓練ができるようになります。こういった個人の特徴に合わせたアプローチは、脳卒中などによる脳機能障害のリハビリテーションに役立つと考えています。
私もこのような脳の仕組みや特徴に基づいた新たな訓練システムの開発に取り組んでいます。

それって、どんなシステムなんですか?

櫻田先生

「ニューロフィードバック」技術を用いた注意訓練システムです。これは、脳が活動した時に生じる電気信号を“脳波”として解析し、リアルタイムで本人に見せたり音の大きさに置き換えて聞かせたりするものです。
普段目に見えない脳の活動を光や音にして本人にフィードバックすることで、自分が本当に「注意」を向けているかどうかが分かります。

自分の脳の観察ができるんですね、面白い!

櫻田先生

そう、こうした脳の活動パターンを解析することで「ブラックボックス」である脳がどのように働いているのかを明らかにすることができます。そして、自分で自分の脳活動を認識する訓練を繰り返すことで、最終的には「注意」を思い通りにコントロールできるようになることを目指します。

Q2

脳に着目するとスポーツが
上達するって、本当?

自分に合った「注意」の向け方を
知ることで上達。

櫻田先生

脳に着目するニューロリハビリテーションの知識や技術は、スポーツにも応用できると考えています。なぜなら、リハビリテーションもスポーツも、特定の動作などを繰り返すことでパフォーマンスを上げていくという共通点があるから。
先ほどお話ししたように、運動中どこに「注意」を向けるかがポイントになります。その「注意」の向け方が自分に合っているかを見極めれば、スポーツでも効率的なパフォーマンスの向上が期待できます。

脳とスポーツの深い関係

注意の向け方ひとつを変えるだけで、運動の能力が上がるなんてすごい!!
私、逆上がりができなくて、体育の時間が憂鬱だったんです。
そんな私でも、できるようになりますか?

櫻田先生

きっと以前より上手くなれると思いますよ!大事なことは、「個人差」=「自分の脳の特徴」を知った上で、自分に合ったやり方を見つけること。
逆上がりを例にすると、外の環境に注意を向けるのが得意な人は、かかとを蹴り出す位置に目印を付け、その目印を意識するほうが上手くいくかもしれない。逆に、自分の体の動きに注意を向けるのが得意な人は、体の傾きを意識してタイミングを掴むほうがいいかもしれませんね。

なるほど!

櫻田先生

自分の脳の特性が分かれば、「自分は運動神経が悪いんだ」とあきらめずに済むし、できないと思っていたこともやり方の問題だったと気づけるはずです。

自分に合った練習の仕方を知れば、苦手が克服できる可能性もあるんだ!
僕はテニス部で運動は得意だけど、水泳やマラソンは苦手で……。
競技種目も脳の特性に関係があるのですか?

櫻田先生

すごくいい質問ですね!そう、関係はあるようです。
水泳、陸上、フィギュアスケートなど、個人競技である「クローズドスキルスポーツ」経験者は自分の体の動きへ「注意」を向けた時に力を発揮しやすく、テニス、サッカー、野球など対戦相手がいる「オープンスキルスポーツ」経験者は、相手の動きなど外の環境へ「注意」を向けた時に能力を発揮しやすいということが分かってきています。

言われてみると、確かにそうかも…!
脳とスポーツの意外な関係が見えて面白いですね!
それにしても、先生はどうして脳が運動に深く関係するというこの研究を
進めようと思ったのですか?

櫻田先生

私はモノづくりが好きで、ロボット製作がしたくて大学にも進学したのですが、より良いロボットにするためにはロボットの使い手である「ヒト」のことを知るべきなのではないかと考え、ヒトの脳に着目するようになりました。
また、スポーツも好きなのですが、運動神経がずば抜けて良いというわけではなかったので、どうしたらもっと上達できるかを考えたのも今の研究テーマに至るきっかけになっています。
こうした背景が、未知を解明するサイエンス(科学)と社会に役立つものを作るエンジニアリング(工学)両方の視点を持つこの研究につながっています。

Q3

脳科学が進化すると、
どんな未来が
やってくるの?

「脳の個性」に寄り添う、
新たな脳機能訓練システムが生まれる!

櫻田先生

リハビリテーションに関して言えば、一人ひとりの患者さんに寄り添った訓練に役立てられると思います。病気やケガで脳に損傷を負った患者さんは、病状や病態、後遺症も千差万別で、残された脳のネットワークも異なります。
だからこそ脳機能の個人差を考慮したニューロリハビリテーションによって、その人が最も使いやすい脳のネットワークが自然と活性化され、脳機能が改善・向上する、そんな新たな訓練システムの選択肢を増やしたいと思っています。

脳機能訓練をいつでもどこでも誰とでも

長期間のリハビリテーションは大変なこともあると聞いたことがあります。
先生の研究は、きっと多くの患者さんに喜んでもらえる研究ですよね。

櫻田先生

そうなると嬉しいですね。今後、IoTなどの技術により訓練システムがオンライン化されれば、遠隔地にいる患者さんでも、自宅で医療従事者の指導を受けながら訓練できる「テレリハビリテーション」が実現していくはずです。
そのような将来のリハビリテーションを想定し、専門家がいなくても気軽に自宅でも使える、スマホベースのオンライン型訓練機器開発も進めています。

自分のスマホで気軽に訓練ができる未来、すごく良いですね!

櫻田先生

小型化やオンライン化などによってシステムを使いやすくできれば、リハビリテーションの訓練仲間との交流もしやすくなりモチベーションのアップにもつながりますし、患者さんの訓練中における辛さを少しでも軽減することに役立つのではないかと期待しています。

訓練システムの小型化で、スポーツの現場も変わっていきますか?

櫻田先生

病院などの医療の現場に限らず、スポーツの現場にも持ち込みやすくなることで、競技種目を問わず、体育や部活、コーチングにも活かせると思います。スポーツ競技力向上に貢献する、誰にでも使いやすい新しい脳機能訓練システムが実現していくでしょう。

遊びながら脳機能アップ

そんな未来、実現できたら素敵だなぁ。
これまで脳科学って、自分とは遠い世界の学問のような気がしていました。
でも、興味がどんどん湧いてきました!

櫻田先生

それはとても嬉しいです!
今は、小中高生にも楽しめるような生体信号を使った教材の準備も進めています。生体信号に触れることができて、ヒトへの興味が膨らむ。しかも遊びながら脳機能が向上するという一石三鳥なデバイス※を目指しています。

※簡単な試作機として、筋肉の信号に基づいて操作するIoTロボットカーを開発中。楽しみながら脳機能のトレーニングにもなる、と期待!

新しい世界が広がりそうですね!そんな技術を開発できるなんて憧れます。
先生は、大学でどんなふうに学んでいくのが良いと思いますか?

櫻田先生

私は未知を解明するサイエンス、その知見を活かして社会のニーズに応えるエンジニアリング、両方の視点が大事だと思っています。
その中でも、大学時代は「サイエンス」的思考を積極的に鍛えましょう。自分の純粋な興味に基づいてブラックボックス(分からないこと)を解明していくサイエンスに触れることで、自分で問題を立てて答えを導く、その導き方も自分で考える力が身につきます。大学では興味のある研究分野にチャレンジし、将来大いに羽ばたいてください!!

※掲載している内容は、2022年12月時点のものです。

Profile

  • 櫻田 武 准教授

    脳の仕組みを解明し、運動機能障害・認知機能障害のためのニューロリハビリテーションプログラムの提案やリハビリテーション機器の開発に取り組む研究者。注意機能から脳の個人差に着目し、効率的な身体運動学習の実現を目指している。
    スポーツは大好きだけど、そこまで得意じゃない。どうしたら効率的に運動パフォーマンスを上げられるか。それが脳に関心を持つキッカケの一つだったという先生。

    スマートニューロリハビリテーション研究室