■公開日
2024年7月29日~2025年3月31日
■会場
オンライン
■主催
成蹊大学アジア太平洋研究センター
■視聴回数
491回
■講演者
北條 雅一氏(駒澤大学経済学部教授)
■講演者
永野 護(成蹊大学アジア太平洋研究センター所長/成蹊大学経済学部教授/成蹊大学リーディングリサーチャー)
成蹊大学アジア太平洋研究センター(CAPS)主催の「少人数教育のデータサイエンス」のオンライン講演会は、2024年7月29日から2025年3月31日まで、CAPSのホームページ上で公開された。
本講演は、駒澤大学経済学部北條雅一教授の研究成果である『少人数学級の経済学:エビデンスに基づく教育政策へのビジョン』(慶應義塾大学出版会、2023年)をもとに、現在日本の小学校において導入が始まっている少人数学級政策の教育的効果ならびに学校教員に及ぼす労働環境の改善効果に関する実証研究成果、当政策の課題を紹介する。
日本の学校学級の人数制限は、戦後学級のすし詰め状態を解消するために始まった。学級編制の標準は、第1次(1959~63年)の50人から第2~4次(1964~78 年)に 45 人、第5~7 次(1980~2005年)に40人になった。2011年に小学1年生のみ35人になり、2021年に義務標準法が改正したことで、小学2年生以上も段階的に35人学級編制を実施することになった。35人学級の実現の契機になったのは、COVID-19対策の一環であったという。
では、少人数学級政策は、教育的な効果があっただろうか。北條教授は、学力への効果について、解釈によっては劇的な向上は見受けられないとしながらも、学力以外の効果である非認知能力の向上に注
目すべきだと述べる。非認知能力とは、人生にさまざまな良い結果をもたらす心理的機能(自尊心・忍耐力・GRIT・レジリエンス・性格特性)を指す。北條教授チームの研究では、この政策により、生徒が
学校への帰属感や授業を心待ちにする態度、学習に対する自信を持つことになるといった、非認知能力の向上が見られたという。
さらに、少人数学級政策は学校教員の就業環境を改善する可能性が高いとした。現在、日本の学校教員は世界一の長時間労働を余儀なくされている。35人学級政策の導入により教員の配置数が増える
と、PT比(教員1人あたりの生徒数)が低下して教員のストレスも軽減し、仕事満足度が上昇したという。
このように、少人数学級政策は児童・教員の双方に望ましい効果をもたらすことが期待されるが、この政策のためには数千億円の相応の費用が発生する。そのため、「少人数学級政策は莫大なお金がか
かる割に、大した効果がない」と言われてきた。とはいえ、北條教授はこの政策がもたらす便益は金額に換算することは難しいと述べる。
少人数学級政策の実現のためには、教員の確保という課題が残っている。現在日本の学校には深刻な教員不足が起きており、そのため、指導方法の工夫・改善や児童生徒支援といった職務のために配置され
た教師や校長、教頭などの管理職までも学級担任を任されているのが現状である。教員不足の背景には、採用人数の増減によって生じた年齢構成の偏りに起因する定年退職・産休・育休などの要因と女性受験
者の減少などが挙げられるとした。
最後に、北條教授は、少人数学級政策は生徒だけではなく教員に対しても、多くの便益と良い影響がもたらされることを再度強調した。この政策によって教員の配置数が増えることで、学校という職場環
境が改善することが期待できるとした。また、この政策にはそれなりの費用がかかるが、未来への投資として国民が後押しすることが重要であること、中学校においてもこの政策が実施されるよう後押しして欲しいと述べて、本講演をまとめた。
(CAPSポスト・ドクター 韓 相一)
記事掲載『CAPS Newsletter No.166』

(駒澤大学経済学部教授)