研究活動紹介

研究活動紹介
エネルギー・医療の可能性を
広げる超伝導

電力・エネルギー研究室 三浦 正志教授

2005年名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程修了. 2006年日本学術振興会 DC特別研究員(名古屋大学). 2007年名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程短縮修了. 2007年日本学術振興会 PD特別研究員((公財)国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所). 2009年 米国ロスアラモス国立研究所Superconductivity Technology Center 客員研究員. 2010年 米国ロスアラモス国立研究所Director‘s Postdoctoral Fellow. 2012年成蹊大学大学院 理工学研究科 准教授. 2011年(公財)電気科学技術奨励会 第59回電気科学技術奨励賞、2014年 第28回独創性を拓く先端技術大賞 フジサンケイビジネスアイ賞、 2014年度成蹊学園教職員表彰学術研究功績表彰など受賞多数. 筆頭論文がNature Communications, Scientific Reportsなどに数多く掲載. 低温工学・超電導学会, 応用物理学会, 日本金属学会, MRS会員.博士(工学).

電気抵抗ゼロ

現在、送電線に使われている金属の電気抵抗は低いのですが、電気抵抗が存在するため発電所で作った電気はお家に運ぶ間に5~10パーセントほど熱として捨てています。ところが、“超伝導”は液体窒素などの冷媒で冷やすだけで電気抵抗を完全にゼロになります。そのため、超伝導を送電線として使うことで発電所の電気をロスなく送れることが出来ます。また、電気抵抗がゼロであるため、大電流を流すことが出来るため、強力な電磁石を作ることが出来ます。この強い磁石は、がんの早期発見に貢献するMRI、最新がん治療である重粒子線用加速器に応用されています。

超伝導でしか実現できない
強い磁石

磁石などの永久磁石は、ニッケルやコバルトの磁性材料を混ぜて作られていて、磁場の強さは0.3テスラ*程度です。しかし、リニアモーターカー、医療診断MRIや重粒子線用加速器などに求められる磁場は、その10倍以上の3テスラです。これを実現するために、超伝導線材を使った電磁石でしか実現できません。電磁石は、導線でコイルを作り、通電させることで流れる電流の大きさに比例した磁場を発生させる磁石です。

  • テスラは、磁場強さを表す単位。

冷やすデメリットを克服

現在、電力貯蔵装置、MRIや重粒子線用加速器磁石等に超伝導が使われています。
しかし、これらに使われている金属系超伝導材料は、~6,000円/1ℓと高い液体ヘリウムや高価な冷凍機で冷やさなければ電気抵抗ゼロにならないため、冷やすデメリットが大きな課題でした。これに対して、1990年以降に発見されたイットリウム系超伝導は、~50円/1ℓと低コストである液体窒素冷やすだけで電気抵抗ゼロとなります。そのため、低コストな液体窒素温度下で電磁石に使えるイットリウム系超伝導線材の作製が世界中で盛んに行われています。

超伝導磁石に向けた三浦研の挑戦

三浦研では、液体窒素温度下で使える超伝導磁石実現に向け、磁場に強いイットリウム系超伝導線材の開発を行っています。
具体的には、ナノメートルサイズの材料組織を制御することで世界最高の磁場特性を示す超伝導線材の作製に成功しています。
これらの技術は、日本、アメリカ、中国及び韓国の4カ国で特許を取得済です。また、三浦研の成果は、英国科学誌Natureの姉妹論文“Nature Communications”や“Scientific Reports”などのトップジャーナルに掲載されています。

世界の医療に貢献したい

現在、日本では、3人に1人が癌で亡くなっています。癌治療には、外科手術、化学療法、放射線治療などがあります。
近年、放射線治療の中でも重粒子線治療は、従来のX線治療に比べ健康な細胞にダメージを与えずに、これまで困難とされてきた部位における癌治療に大きな効果があります。
今後、本研究室で開発している液体窒素温度下で使用可能なイットリウム系超伝導線材が使われることにより装置やランニングコストの低減が可能となり、装置普及率向上や医療費低減が期待されます。さらに、これらの装置が開発されれば、日本だけでなく、経済発展著しいBRICsやNEXT11などの海外の医療に貢献することが出来ます。