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宮井 健志客員准教授インタビュー

授業では、「失敗した者勝ち」。
ディスカッションで伸ばす
英語力と発信力

国際的な時事問題などをテーマに、EAGLEで授業を担当する宮井健志客員准教授。留学したパリで目の当たりにした移民問題が、現在へと至る研究テーマとなりました。留学中には言語の壁に直面し、苦い思いも。そんな実体験をもとに、学生たちには「『違いに触れる』海外経験を積み、失敗を重ねながら自らの思いを発信する力を得てほしい」と語ります。

profile

宮井 健志 客員准教授

群馬県出身。専門分野は国際政治、政治理論、移民研究など。北海道大学法学部在学中にフランス・パリ政治学院に留学。北海道大学大学院法学研究科修士課程、同博士課程単位取得満期退学を経て、2020年、イタリア・欧州大学院(European University Institute)政治社会科学研究科博士課程修了(博士:政治社会科学)。2019年3月より日本国際問題研究所研究員を務め、2021年4月、成蹊大学法学部政治学科客員准教授に就任。

インタビューを読むread the interview

国際政治のスケールの大きさに魅せられ留学したパリで移民問題に開眼

Q01移民問題などの国際政治を専門とする宮井先生。そもそもこの分野に進まれた経緯とは。read more

高校生ぐらいの頃から、「違い」に触れることに対し、強い憧れを抱いていました。たとえばテレビで見聞きした海外の話題などで、「日本とは何かちょっと違うな」と思うトピックに、心を動かされていました。大学進学の際にも、「本州にはない世界が広がっているかも」と考え、北海道大学の法学部に進みました。そこで魅了されたのが、国際政治の講義。「戦争」や「テロ」といった事象に対し学問的にアプローチしていくのですが、そのスケールの大きな問題をどう理解・解釈するかを学ぶ過程で、政治への関心が一気に高まりました。

その後、学部3年次にフランスの「パリ政治学院」に留学しました。フランス・パリを選んだのは、「文化的な差異」を考える上で、うってつけの場所だと思ったから。周辺にたくさんの国がひしめく中で、多様な文化が共存している。それを、目で見て体感してみたかったんです。

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Q02パリ政治学院では、どんな学びを得られましたか。read more

パリのきれいな街並みを、どうやって保全するのか?――そんな都市政策に、もともと関心がありました。しかし、その方向性が変わる出来事を体験することに。フランスでは2005年、移民が多く住むパリ郊外で大規模な暴動が起きたのですが、それから数年したある日、そのエリアで催されるホームパーティーに呼ばれ、衝撃を受けました。暴動によるものなのか、燃やされた車が広場に放置されているのを見たのです。授業でも話題にはなっていましたが、美しい街並みの裏に潜む「排除」「格差」といった都市問題を、わたしはその時初めて目の当たりにしました。そうするうちに、おのずと移民について研究したいと思うようになりました。

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「ガツンとやられた」初めてのプレゼンテーションの授業

Q03人生初の海外生活、苦労はありませんでしたか。read more

パリ政治学院はたいへんレベルの高い学校で、わたしは鼻っ柱をポキンと折られました(笑)。特に最初の授業のことが忘れられません。プレゼンテーションの授業で、「トピックを一つ選んで」と言われたのですが、「トピック」の内容がわからないうちに、他学生にどんどん選ばれて、最後に残った翌週の枠のトピックである「米国のエスニシティ」を担当する羽目に。フランス語は苦手でしたが、1週間後、トピックについてわたしがどうにかこうにか話していると、目の前の学生らがクスクス笑い始めました。わたしのフランス語の発音がおかしかったんですね。それにはガツンとやられました。もっと外国語でのプレゼン経験を積んでいれば、自信を持って発表できたはず。留学を有意義なものにするには、事前準備をしておいた方がいいことを痛感しました。
それから札幌に戻って大学院に進学し、研究と並行してフランス語や英語の学びを深めていきました。修士課程を終えた頃でしょうか、海外でもう一度チャレンジしてみたいと思い立ち、その後イタリア・フィレンツェにある欧州大学院(EUI)の博士課程に入学しました。研究が一段落したところで帰国し、2019年3月からは、日本国際問題研究所の研究員に。欧州に関わる協議やシンポジウム、研究調査プロジェクトの運営に従事していました。

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Q042020年には、欧州大学院の博士課程を修了されます。在籍中から現在に至るまでは、どんな研究を?read more

移民を受け入れる国と送り出す国の両国家間で、どういった協力があるべきか、ガバナンスの問題を現実と思想の両面から研究していました。昨今は特にホットな話題です。そして現在、特に取り組んでいるのが、出稼ぎを中心とする受け入れ国と送り出し国の協力。日本の技能実習生の問題なども意識しながら、研究を続けています。

学部と大学院の計5年間、欧州での生活を経験したわけですが、留学の醍醐味とは、「違い」というものに心の底から触れられることです。自分の想像力の範囲内では、まったく思いもつかないアイディアに触れられる。海外でないと味わえない経験は、間違いなくあると思います。

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ディスカッションで発信力を養いながら英語の4技能を磨く

Q05現在、EAGLEでご担当中の授業についてお聞かせください。read more

EAGLEでは4つの授業を担当しています。「Current Topics in Global Issues」は、現在起きている事象やニュースについて英字新聞メディアを中心に読み込み、ディスカッションする授業。「Media English」では、メディアに関心のある学生向けに、より社会的な問題に焦点を合わせます。「International Relations」では、国際政治に関する基本的概念や理論を説明したうえでケーススタディを用意し、学生同士でディスカッションを実施。最後に1000ワードほどのレポートを提出してもらいます。そして「Global Studies Seminar」では、国際問題について学生一人ひとりがプレゼンテーションを行い、そこで提示された問題について皆でディスカッションします。授業は基本的にすべて英語で行います。

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Q06授業で力を入れている点を教えてください。read more

海外でグローバルなキャリアを積む時に最も重視されるのは、「自分がどんなことを発信するか」や「どういうことを言えるか」という発信力です。教員が主体となって話すばかりの授業では、英語を理解する能力はついても、この能力は伸びません。そのため、わたしの授業では、学生が自らの考えを表現する機会を多く用意しています。

たとえば、前述した「Global Studies Seminar」では、国連のWEBサイトで紹介されている貧困や気候変動といった22個の国際問題の中から、学生自身が興味を持ったトピックを選び取り、20分間のプレゼンテーションを行います。その後、発表者の学生が提示した質問について数人ごとのグループに分かれてディスカッションするのですが、ここでも主体はあくまで学生たち。対等な立場同士で議論を交わしてもらうために、わたしは、理解できないフレーズがあったり、発言に詰まったりする学生がいた場合のアシストにまわります。国際問題や社会問題について興味を持ってもらうようにわたしから仕向けるというよりも、もともと自らの中にある思いを「言いたいけれども、言えない」「考えているけれども、それを言葉にできない」という学生に対して、心理的ハードルを取り払う手助けをしたいと思っています。

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Q07効果的なディスカッションのために、工夫していることはありますか。read more

ディスカッションの内容が難解になったり漠然となったりしてしまった場合には、アプローチを変えて質問を別の表現に言い換えたり、「言いたいのはこういうこと?」と解きほぐしたりします。ディスカッションで大事なのは「質問のクオリティー」です。筋の悪い質問を投げてしまうと、数分で議論のネタが尽きてしまいますが、しっかりと練られた質問ならば議論ははずみます。具体的にイメージができて、「ディスカッションしたい」と思わせるようなテーマ設定をいかにするかが大切。これは、わたしが受け持つほかの授業でも常に意識していることです。また、このようなディスカッションを繰り返せば、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能をバランスよく伸ばすことにもつながると考えています。

「Global Studies Seminar」の様子。この日は学生2名がそれぞれ、「Africa(アフリカ)」と「Refugees(難民)」について発表し、ディスカッションを行った。

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Q08最後に、EAGLEを履修する学生たちへメッセージを。read more

英語で「みんなと議論する」「プレゼンする」という海外を想定したシチュエーションは、自主性だけではなかなか実現できません。これをEAGLEでは大学の講義の中で体験できるのが大きな特徴で、じつにチャレンジングなプログラムです。わたしが学部生の頃を振り返ると、正直これほどのレベルで授業を受けられなかったでしょうね。しっかり課題をこなしている学生の皆さんはすごいと思います。ただ、実際に海外に出て学んだり働いたりする際は、話すまで待ってもらえるような優しい環境はありません。ですから、いまのうちにたくさん失敗すると良いでしょう。わたし自身、何度も失敗してきました。「失敗した者勝ち」と思うぐらい、EAGLEでたくさん話して、楽しみながら取り組んでもらった先に、グローバルなキャリアを切り拓いてもらいたいと思います。

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