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【結果発表】2022年度「書評コンクール」受賞作品のお知らせ

イベント 終了

日程:2022年11月30日(水)

みなさん、お待たせしました。
「書評コンクール」受賞作品の結果発表です。
まずはたくさんのご応募を本当にありがとうございました。
応募者数35名、応募作品は延べ45点でした。

厳正な審査の結果、下記のとおり受賞作品を決定しました。

なお、今回の審査・結果発表に当たり、審査員の先生方より、「今回はとても良い作品が多く、甲乙つけ難かったが、厳正な審査の結果、受賞作品を決定しました」というコメントをいただいていることを、図書館事務室より申し添えて、皆さんにお伝えします。




金賞:関壮一郎さん(法学部 法律学科 4年)

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』/加藤陽子著/新潮社 請求記号:BN16/か77/1

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 「それでも」は、何を指しているのだろうか。
 本書は日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦と満州事変・日中戦争を経て、日本が勝ち目のない太平洋戦争に猛進した原因を考察している。分析対象は、戦力の統計、山県有朋や松岡洋右といった為政者の言葉にとどまらず、中国や列強の視点にも及ぶ。筆者は歴史の流れというマクロの視点、為政者のミクロの視点、諸外国の視点とを行き来することで、歴史を複眼的、躍動的に分析している。これこそが本書の特色であり、名著たる所以である。
 筆者は海軍の水野廣徳の言葉を引用し、太平洋戦争時の日本が「戦争をやる資格がない国」だったと洞察する。資源に乏しく、外国との通商関係の維持が重要な日本。対外戦争の歴史を誤用し、日米の国民総生産で12倍もある国力の差を根性論で克服しようとした軍部。食糧確保を軽視し、ニューギニア戦線で餓死者が多発した事例。戦局の劣勢を知らされないまま、勝利を信じる世論......。あなたは読み進めるほど、筆者が戦争の実態を「抉る」姿に知的興奮を覚えるだろう。
 先の大戦が遠くなる中で、歴史の書籍には好戦的な惹句が並ぶようになった。しかし、本書を読了した暁には、静かな心で自問してほしい。
 「それでも、私は『戦争』を選ぶか」

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銀賞:村木碧唯さん(文学部 日本文学科 2年)

『夜空はいつでも最高密度の青色だ』/最果タヒ著/リトルモア 請求記号:911.5/さい

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 最果タヒの詩を理解することは難しい。つかんだと思っていても、次の行ではするすると抜けていってしまう。まるで空を漂う雲のような言葉ばかりだ。
 それでも私が最果タヒの詩に惹かれてしまうのは、その言葉のなかに「言葉にできない感情」が含まれているから。
 朝、目が覚めたとき。昼、人ごみの中を一人で歩いているとき。夜、なかなか眠れず、夜更かししてしまうとき。季節の移り変わりを感じたとき。課題が溜まっていくのに、なぜか手が出せないとき。時間がないのにSNSを開いて、どうしようもない時間を過ごしてしまうとき。自分一人だけが、みんなとは違う人間なんだと感じてしまうとき。何年も会っていない友人のことを、ふと思い出したとき。自分はもうすでに子どもではないのだと、ふと気が付いたとき。昔テレビでよく見ていた著名人が亡くなったというニュースを見たとき。
 「寂しい」だとか「悲しい」だとか「孤独」だとか、そんな簡単な言葉で形容できるものではなくて、それなのにどうしても心の中に湧き出てしまう「何か」。
 最果タヒは、そんな言葉にできない感情に言葉を与えてくれる。そして、どんな感情も認めてくれる。「理解を得られないだろうそんな感情が、その人をその人だけの存在にしている」と。
 読むたびに、その時持ち合わせている感情によって目に留まる詩が変わっていくのも魅力的な一冊である。四十三の詩の中から、あなたの感情を形容する一節がきっと見つかるはず。

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銅賞:田辺匠真さん(文学部 英語英米文学科 3年)

『いちばん大事なこと : 養老教授の環境論』/養老孟司著/集英社 請求記号:080/S-3

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「ああすればこうなる」。虫採りが趣味で、解剖が専門なのだが、自身を「裂きイカ業者」と称する著者、養老孟司は現代人のこの考え方を忌避する。彼からすれば、現代人は「都会慣れ」しすぎたせいで「自然」の感覚を失い、なんでもかんでも「ああすればこうなる」と考えがちだそうだ。彼は、霞ヶ関の官僚達が災害対策でよく口にする「危機管理」という言葉を引用し、そもそも「自然」を管理 からになるのではないかと疑問を投げかける。この例から、彼は「自然」相手に物事が全て思ったとおりに進むと錯覚している現代人の考えの甘さをあぶり出し、批判しているのだ。「自然」が「ああすればこうなる」と簡単にはいかない以上、世の中の物事に対して「ああすればこうなる」と高を括って臨むこともナンセンスであると筆者は指摘する。これを防ぐために、筆者は「人事を尽くして天命を待つ」ことの大切さを説いたうえで、私達の中に「自然」の感覚を取り戻す方法を提案する。それは、1年の半分を都会で。もう半分を田舎で過ごすというものだ。筆者はこれを現代版の「参勤交代」と名付ける。この実践を通して、私達は、「ああすればこうなる」という考えを是正し、「自然」に根ざした柔軟な考えを手に入れることができるようだ。それが実現可能かどうかはさておき、この本は「都会」慣れした私達の凝り固まった考えを「自然」の観点から面白おかしくほぐしてくれる。この本を通して、生き方や考え方を根本から見直してみては如何だろうか。

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銅賞:安藤滉さん(文学部 日本文学科 4年)

『探偵小説と「狂気」』/鈴木優作著/国書刊行会 請求記号:910.26/すず

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文学に潜む「狂気」、その正体を問う。
猟奇殺人、精神崩壊、拷問、監禁、グロ、発狂......小説の世界を彷徨っていると、時に狂気的な描写と出会うことがある。彼ら狂人たちはなぜ狂い、狂わされたのか。忌むべきものとされた狂気の数々は、いかようにして生まれ、何を人間にもたらしたのか。そもそも一体、何が狂気なのか。
この禁忌に敢えて触れ、近代という時代の解明に挑んだのは、昨年度成蹊大学で教鞭を取られていた鈴木優作氏。近代探偵小説に潜む「闇」を、人間心理や法制度、病理や作者の意図など、多角的な視点から「狂気」を読み込み考察している。文学研究史上、これまであまり踏み込まれてこなかった視座に立ち、それから見えてくるものは、我々が生きる社会と人間の本質だ。
いつの時代でも人間たちは「主流」と「傍流」の区別をしてきた。社会にとって都合のいいものは「主流」に、そうでないものは「傍流」に付して目を瞑る。主流に漏れた者たちは、社会から見放され、やがて闇へと葬られる。正当に評価されるものこそが主流だと。
しかし著者は云う。
「マイノリティを見つめることなしに、時代の価値観を捉えることはできない」
闇に葬られた「傍流」の者たちにこそ、その時代の真実がある。「主流」を見つめる「狂気」たちの眼差しにこそ、我々は目を向けるべきだ。この著者の言葉は、人文学を研究する者たちの姿勢を正してくれる指標である。
時代と人間の内面を映し出す鏡、「狂気」。
あなたはこの狂気とどう向き合うか。

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審査員特別賞:藤井嵩大さん(経済学部 現代経済学科 3年)

『ハッピーエンドにさよならを』/歌野晶午著/角川書店 請求記号:BN12/う14/7

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 子供のころ、寝る前の母の読み聞かせは決まってハッピーエンドであった。人生こんなにうまくいくものだろうか。母の声を聞きながら、ひねくれものの私はそう感じていた。実際、人生うまくいかないことのほうが多い。そんな中、物語もバッドエンドを好む私は本当のひねくれものなのだろう。
 バッドエンドは実生活では味わいたくないものの、物語としてみると結末に意外性があり、クセになるものがある。本書はすべてバッドエンドで終わる11の作品からなる短編ミステリ集だ。初めからすべてがバッドエンドになることが分かっているのにも関わらず、ミステリ特有のうまくいくと見せかけて突き落とす、すべて期待を裏切らない物語ばかりである。
 その中の1つである「防疫」。伝染病の流行を予防するため、感染源、感染経路に対する処置を総括していう。コロナが流行る今、まさに行われている防疫。行き過ぎた英才教育が狂気に結びつくストーリーだ。親の英才教育が及ぼす影響は子供にとって善なのか、悪なのか。結局のところ、自分の子供に託しているものは子供のためじゃない、自分のためのもの。すべては自らを守るためのものなのだ。赤ん坊を1人の人間として扱っているのにも関わらず、冒頭とラストでは全く違ったものに感じるだろう。
 英才教育とはいかないものの、比較的厳しい家庭で育った。門限も早く、ゲームはさせない、テレビは夜9時で終わり。もちろん当時は少しつらかったものの、そのおかげで本を読むという素晴らしい趣味を与えてくれた。子供のころの読み聞かせも読書を好きになったきっかけのひとつだ。
 お母さん、ありがとう。でもごめん、息子は今ゲーム三昧で夜更かししている。

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審査員特別賞:伊藤杏華里さん(理工学部 情報科学科 2年)

『運転者 : 未来を変える過去からの使者』/喜多川泰著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 請求記号:913.6/きた

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人は自分で見たことがすべてだと思う傾向がありませんか。しかしその裏には多くの人の多くの思いが隠れています。そして、自分が思いもしないようなチャンスまで。この本は、今何をしてもうまくいかない方、最近運が悪いと感じている方にとても読んでいただきたい作品です。
この本の主人公は、仕事も家族との関係もうまくいかず人生に行き詰っていました。そんなときに不思議なタクシーに乗り合わせます。「運を転ずるのが仕事」というこのタクシーの運転手は主人公が今その瞬間に行くべき場所に連れて行きます。そして、主人公にはなかった視点を教えてくれます。物事の見方を変えれば新しく見えてくる世界がたくさんあります。人生が変わるタイミングが日々の生活にあふれているのです。
そしてこの本を読むと、運の考え方が少し変わるかもしれません。私たちは普段運について良い、悪いという捉え方をします。しかし、それ以外の捉え方も知ることができます。
著者は喜多川泰氏、1970年生まれで愛媛県出身、東京学芸大学卒業。『賢者の書』でデビューし、2作目となる『君と会えたから・・・』は10万部を超えるベストセラーとなりました。『運転者』で18作品目であり、国内累計100万部を超えるベストセラー作家です。また著者は、小学生から80代まで幅広い年齢層から愛され、その影響力は国内に止まらず、複数の国で翻訳されています。
今の状況を自分の力で変えてみませんか。考え方の癖を治すことはすぐには難しいかもしれません。しかし、新しい考え方を知ることは今できます。この本に出会い、あなたの人生が少しでも良い方向になりますように。

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審査員特別賞:三橋瑛さん(理工学部 システムデザイン学科 4年)

『箱男』/安部公房著/新潮社 請求記号:BN16/あ4/16

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 小説を読むとき、書かれている文章をわたしたちはそのままの意味で受け取る。そこには比喩や濁した表現も含まれるが、読み解く上でその表現自体に疑問を持つことは少ない。つまり、この文章自体には真実しか書かれていないと思い込んで、わたしたちは小説を読んでいる。果たしてその思い込みは正しいのか、小説に対して何か在り方を求めてはいないか。
  物語の進み方は始まりから終わりへと一方向に進む。時間の進行や、作中人物の心情の変化などで、読者は物語の流れを理解しながら読み進める。だが、この本はその流れを完全に無視してしまった。物語は主人公のものと思われる日記を読むことで進んでいく。その途中で、日記には度々注釈のような書き足しがされている。それは物語のどこでされたもので、だれがしたかもわからない。さらにはこの日記自体、本当に書かれたものであるのかすら怪しい。時間軸も視点も次々と変わり、真実と嘘の区別がわからなくなる。小説を読むというよりは難解なパズルを解いているような感覚に陥る。
 しかし、それは今まで、物語に書かれている文章はすべて真実だと疑ってこなかったからだ。得られる情報をもとに因果関係を考え、心情や、物語全体を理解する。この手法を小説を読むうえで、形式的に用いていないだろうか。本作品はこれに一石を投じて、小説の在り方というのを見直させてくれる。また読み解くにあたり、読者が自分なりの理解と考えを持てることを理想とされがちだが、著者はその裏腹に文章の中にあえて明示的な対比をいくつも作り出している。これによって著者の意図を否応なしに考えさせられ、ついついその答えを見つけようとしてしまう。
 実際、この本は難しいと思う。しかし難解であることと、明解なことは表裏一体で、ちょっとした一文から物語全体を読み解けてしまう。だから難しい本なんてものは、実はないのかもしれない。そんなことを思わせてしまう一冊だ。

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なお、惜しくも受賞を逃したみなさん"全員"にささやかながらも参加賞を差し上げます(詳しくはポータルサイトでご連絡します)。

今回は図書館員お手製のガチャガチャで参加賞を決定します!乞うご期待!!
(参加賞の受け取りは、12月5日以降に2Fカウンターへお越しください。)

受賞作品と書籍は大学図書館アトリウムに順次展示しますので、実際に手に取ってみてください。
コピス吉祥寺内のジュンク堂書店吉祥寺店とのコラボフェアも開催予定です。

成蹊大学図書館

TEL:0422-37-3544

(平日 9:00〜17:00 土曜日 9:00〜12:00)

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