気候変動&ヒートアイランド

都市のヒートアイランド

気候変動&ヒートアイランド

ヒートアイランド

ヒートアイランド(Heat Island)とは、都市部の気温が周辺の郊外・田園地帯よりも高くなり、まるで「熱の島」のようになることから名づけられました。しかし、一般には、夏の昼間に都市の気温が高いことをヒートアイランドと呼んでいるようです。本来のヒートアイランド現象は、夏の昼間ではなく、寒い季節の夜間・早朝の風が弱い時間帯に発生しやすいことがわかっています。

図1は、東京首都圏の冬の夜間に人工衛星Landsatの赤外線カメラでとらえた熱画像(地表面温度)を示しています。赤い色は温度が高いエリアで、都心部から郊外にかけて緑色の低温エリアへと変わっていることがわかります。

図1 Landsat衛星による熱画像:1991年12月24日20:30

都心部の表面温度がもっとも高く、新宿などの副都心地区も高温であることがわかります。成蹊気象観測所のある吉祥寺駅周辺はやや温度が高いですが、周辺の住宅地は低くなっています。興味深いのは、都心部にある皇居の緑地は周辺よりも温度が低いクールアイランドを形成していることです。

巨大都市東京のヒートアイランド

ヒートアイランドは冬の現象だと述べたのですが、現実には夏の暑さが年々厳しくなっているので、ここでは、吉祥寺も含めて夏の東京の暑さを示す用語としてのヒートアイランドについて解説します。

過去50年間で2度も上昇した東京の気温

図2 過去50年間の東京都心部と世界の平均気温変動

東京を例に、都市のヒートアイランドの実態を見てみましょう。図2は、東京都心部と全地球(グローバル)の年平均気温の変化傾向を示したグラフです。地球温暖化の指標になるグローバル平均気温は、空間的に平均化されているために年々の変動が小さくなっていますが、過去50年間の気温上昇率を直線で当てはめると、1℃/50年になります。一方、東京都心部では、年平均気温が過去50年間(1971~2020年)に2℃も上昇しています。ただし、東京1地点のデータのみに基づいていますから、年々の変動幅はかなり大きくなっていますが、変化傾向だけを比較しても、地球温暖化の約2倍の早さで気温が上昇していることになります。このことから、東京都心部では地球温暖化に都市のヒートアイランドによる高温化が加わっていることがわかります。

東京首都圏のヒートアイランド

図3 冬季の最低気温と夏季の最高気温の分布

筆者の研究チームでは、東京首都圏のヒートアイランドの実態を詳しく調査するために、首都圏に多数の自動記録式温度計を設置して気温の観測を行っています。黒丸が観測地点です。この観測システムをMETROSと呼んでいます。図3は、長期間観測したデータをもとに季節別の等温線を引いたものです。冬季(12月~2月)と夏季(6月~8月)について、1日の最高気温と最低気温の平均値の分布が示されています。等温線の間隔は0.5℃で、数値は気温(℃)です。

まず、冬季(左図)早朝の等温線をみると、東京都心部に5℃以上の高温域があり、ここを頂点としてほぼ同心円状に周辺の気温が低くなっていますが、同時に北や西の内陸部にいくほど気温は下がっています。まさに、都心部を頂上とする熱の島(Heat Island)が形成されていることがわかります。都心部と郊外の気温差は5℃を超えています。

一方、夏季(右図)の日中の等温線は、冬季早朝とはまったく異なる分布を示しています。気温が最も高いのは都心部ではなく、北西部の埼玉県にあり、29℃以上の高温域が都心部から北西方向に延びています。東京の湾岸部や千葉県西部、神奈川県南部には28℃以下の比較的低温なエリアが見られます。

急増する都心の熱帯夜

都市部では夏季になると、日中だけでなく、夜になってもなかなか気温が下がらず寝苦しい「熱帯夜」が続くことがあります。昔は東京の下町で夕方になると、屋外で夕涼みをしたり、家の中でも寝冷えの心配が必要だったという話を聞きます。「熱帯夜」というのは、気象庁の定義で夜間(夕方から翌朝まで)の最低気温が25℃以上の場合を指しますが、日本独自の用語で海外では使われていません。熱帯では、昼間は気温が上がりますが、夜間は過ごしやすいので「熱帯夜」という表現は誤解を招きますが、定着した用語なので、ここではそのまま用いることにします。

図4 東京都心部における熱帯夜日数の長期変動

図4は、20世紀以降の東京都心部における熱帯夜日数の年々変化を示したグラフです。1930年頃までは年間10日に達していませんが、次第に増加して1980年代以降は年間20日を超えるようになり、特に2010年以降は40日から50日以上と急増していることがわかります。気象庁の東京観測地点は、2014年12月に大手町から北の丸公園(緑地)に移転しました(図の緑色点線)。そのため、最低気温が約1.4℃低下したため、熱帯夜日数は減少している点に注意が必要です。

図5は、2011年7月の1ヶ月間について、首都圏における熱帯夜日数の分布を示しています。20日の等値線が、都心部から川崎方面に延びています。その周辺には、東京23区から横浜方面に広がる15日の等値線が引かれており、まさに月の半分以上が寝苦しい熱帯夜という状況にあります。一方、郊外に目を転じると、東京の西部郊外や埼玉、茨城方面では10日以下で比較的夜も過ごしやすいことがわかります。このことから、都市のヒートアイランドは、特に夜間~早朝の気温が周辺郊外よりも高くなる点に特徴があると言えるでしょう。

図5 熱帯夜日数の分布(2011年7月)

夏季のヒートアイランドと海風の効果

図3で冬季の最低気温と夏季の最高気温の分布を比較しましたが、夏季の典型的な猛暑日(2020年8月11日)について、早朝の5:30(最低気温出現時)と昼間の14:00(最高気温出現時)における東京首都圏の気温分布を示したのが図6です。

図6 典型的な猛暑日の首都圏気温分布

早朝の5:30の図(左図)を見ると、都心部を中心とするやや南北に延びる同心円状のヒートアイランドが出現しており、郊外との気温差は最大で4℃近くに達しています。一方、日中の14:00の図(右図)では、都心部を中心とする明瞭なヒートアイランドは消滅し、東京の北部から埼玉県にかけて気温が高くなっており、県の中部から北部では40℃を超えています。一方、東京湾岸部から東部にかけては相対的に気温が低く、北西部の高温域との気温差は6℃を超えています。湾岸部では、東京湾からの比較的涼しい海風によって気温の上昇が抑制されていることがわかります。

ヒートアイランドはどうして起こるの?

ヒートアイランドの三つの要因

都心部が郊外よりも高温になるヒートアイランド現象はなぜ起こるのでしょうか?そこで、都市ヒートアイランドの形成要因を考えてみたいと思います。都市が高温化する原因は、大きく分けると三つあります。一つは、都市域での人工排熱の増大、二つ目は地表面被覆の人工化、そして三つ目は緑地・水面の減少です。地球温暖化の主な原因である人間活動による二酸化炭素濃度の増加は、ヒートアイランドの要因としては小さいと考えられます。

人工排熱による大気の加熱

図7 東京首都圏の人工排熱分布(1998年度)

第一の要因である都市域での人工排熱については比較的理解しやすいと思います。都市域では人口が集中し、エネルギー消費量が増加の一途をたどっています。人工排熱の原因である人為的なエネルギー消費量を正確に求めるのは容易ではありませんが、工場や事業所、住宅、自動車などから排出される熱量は膨大です。東京都の調査によると、1994年度における都内の人工排熱量の推計値は区部で平均1㎡あたり約24ワットになります(図7)。東京地域で受けとる年間平均日射量は1㎡あたり約130ワットですから、東京区部の人工排熱量は日射エネルギーの20%近くにも達する計算になります。都内でも、オフィスビルが集中し自動車交通量の多い都心部では40ワット以上に達しており、局所的には100ワットを越えてほぼ日射量に匹敵するエネルギーを排出しています。

図8 都心3区の人工排熱強度の日変化

図8は都心3区の8月(平日)における人工排熱強度が1日でどのように変化するかを示したものです。オフィスアワーのピークとなる午前11時から夕方にかけて80ワット前後の排熱強度が継続しています。ところが図6でも明らかなように、この時間帯の高温の極は人工排熱強度の高い都心部ではなく北西部にあります。

人工排熱は直接大気を加熱して気温上昇に拍車をかけます。とりわけ、夏季日中の高温出現時には都心部の冷房需要はピークに達し、エアコンの室外機や高層ビルの屋上に設置された冷却塔からの排熱が気温を上昇させるため、さらに冷房需要を増大させるという悪循環を生み出すことになります。水冷式の冷却塔からは水蒸気の形で大気に放出される熱(人工潜熱)もあるため、気化熱による気温上昇抑制効果も若干働くと考えられます。

熱を溜め込むコンクリートとアスファルト

図9 東京駅と周辺の市街地

次に、第二の要因である地表面被覆の人工化について考えてみましょう。図9は東京駅とその周辺の状況を空から捉えたもので、高層ビルが建ち並ぶとともに、背後には中低層のコンクリート建造物が密集しています。左手前には皇居外苑の一部と外堀の水面が見えます。

コンクリートの建造物やアスファルト舗装道路で覆われた都市の地表面は、森林・草地や田畑・裸地が主体の郊外田園地帯とは、熱容量・熱伝導率などの熱的特性、および蒸発効率や反射率・射出率などの放射特性が大きく異なります。例えば、コンクリートやアスファルトは夏季日中に日射エネルギーを吸収してその表面温度はしばしば50℃を超えます。

図10 新宿駅周辺の熱画像

図10は夏期の日中に新宿駅周辺地区上空からヘリコプターで撮影した可視画像(左側)と熱画像(右側)で、幹線道路のアスファルト表面や密集した建造物の表面温度が40℃を超える高温になっていますが、緑地の表面温度は30℃以下になっており、クールアイランド(低温域)を形成していることが読み取れます。

夏の炎天下で暑く感じるのは、日射に加えて高温のコンクリート面からの放射熱が加わるためです。さらに、夜間になってもそれらの表面温度は気温よりも高いため周囲の大気を加熱し続けます。これに前述の人工排熱が加わり、都市部では夜間の気温低下が大幅に抑制されることになります。これが熱帯夜を増加させる主な要因です。

コンクリートやアスファルトが水を通さない材質であるという点も都市の高温化に寄与しています。よく知られているように、水は蒸発するとき気化熱を奪って周囲の気温を下げる役割がありますが、非透水性のコンクリートやアスファルトで覆われた都市ではその効果がないため高温化が促進されます。近年、東京では保水性舗装の実験的試みがなされています。透水性舗装の場合は雨水が地中にまで浸透するため、地下水面の低下を防ぐ効果がありますが、ライフラインが地下に張り巡らされている都市部では地表面で雨水を保つ舗装の方が好まれるのでしょう。

減少する都市の緑地と水辺空間

三つ目の要因は、緑地・水面の減少です。東京では多くの中小河川が暗渠化され、改修されて水面の占める割合が大きく減っていることから、水面からの蒸発による気化熱の効果も弱まっていると考えられます。幸いなことに、荒川、隅田川、多摩川といった比較的大きな河川の水面は保全されており、東京湾から吹き込む冷涼な海風を都内に導いてヒートアイランドを緩和する「風の道」としても有効に働いています。水面とともに気温上昇を抑制する効果の高い緑地も戦後著しく減少しています。都市化の進展は、郊外では畑地や森林をつぶして住宅地を広げ、都心部では木造の低層建造物からコンクリート造りの中高層建造物への転換という形で緑地の大幅な減少をもたらしました。緑地の減少による気温上昇を定量的に見積もるのは困難ですが、筆者らの観測調査からは、20ヘクタールを超える都内の大規模緑地では周辺市街地との気温差が平均でも2℃に達することが確認されており、緑地内冷気の周辺への流出(にじみ出し現象)によって市街地の高温化を幾分かでも抑制する効果は十分に期待できます。

文責:三上岳彦