コラム

シリーズ"SDGs副専攻"科目紹介 第4回「生命倫理と法」

成蹊大学には、所属する学科の専門分野の学びにプラスして、学生自身の興味・関心やニーズに沿った学修を進められる副専攻制度があります。"SDGs副専攻"では、「環境・地域」、「国際理解」、「人権・共生」の3つの側面に関する科目やそれらの「実践」に関する科目をバランスよく学ぶことにより、持続可能な社会の実現に貢献するための素養を身に付けることを目指します。第4回は「生命倫理と法」について紹介します。

■担当教員
法学部 藤田大智 助教

■授業のテーマ
生命倫理に関する社会的課題を、医療や生命、人間の健康に関わる法制度の分析を通して考察します。

■主な授業の内容
生命倫理の意義、社会規範としての倫理と法の関係、インフォームドコンセント、人間の死に関する問題、医療情報に関する問題、医療公費と法規制、医療事故に関する問題、薬害に関する問題、出生に関する問題、子ども・高齢者の医療に関する問題、人の障害に関する問題、グローバル化と公衆衛生、人間の健康維持に関わる環境・動物の倫理など

■関連するゴール
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▽筆者の授業体験レポート
 今回は、人の障害に関する問題を扱った授業に参加しました。
 まず、優生思想と日本の法政策について概観しました。命の格付けを行う旧優生保護法のもと、1996年まで約2万5千人の方が生殖を不能にする手術や放射線の照射を受けることを強いられました。2019年にようやく「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」が成立しました。授業で取り上げ国家賠償請求訴訟の事案では、第1審で除斥期間(法律上定められた権利行使の期間制限)を理由に請求が棄却されましたが、控訴審では、除斥期間の効果は生じないとし国に賠償を命じました。その判決に対し現在国は上告中です。藤田助教からは、除斥期間を理由にできるのか?被害者にとってお金で解決できる問題なのか?我々の無関心により1996年まで旧優生保護法が存在していたことをどう考えるか?といった問いが投げかけられました。
 続けて、精神科医療と関連法制度、人権課題についての講義です。私は授業を受けるまで、日本の精神病床数が世界最多であること、入院期間が世界平均の7倍であることを知りませんでした。精神疾患について、5人に1人が一生の間に罹患すると言われ身近なものであるにもかかわらず、日本では正しい理解が進まないまま、長い間社会から隔離する政策をとってきたという背景があります。改善を経てきた現行法制度においても、本来福祉サービスの対象となるような方が本人の意思によらず入院させられたり、本人が退院を希望しても認められない例が多かったり、入院患者に対する過剰な行動制限が行われています。ちなみに、日本の精神科病院では約半数が強制入院だそうです。 
 授業で示された「基本的人権である自由権の前で、"あなたには治療が必要です"というだけで強制入院・治療を正当化できるか」「強制入院は医師の診察結果のみに基づき事前の司法審査がないままでよいか」「強制入院後に、退院を希望し弁護士を通じて不服申し立てを行うことが実質的に困難な現状は打破すべきではないか」「閉鎖病棟に隔離するという重大な人権侵害が本当に必要か緻密な判断がなされていないのではないか」「国が主導した優生政策の存在と精神障害に関する教育が欠如し不足しているのではないか」といった課題は、私達一人ひとりがきちんと向き合って考えなくてはいけないことだと強く感じました。

■藤田助教からのコメント
 本講義は、生命に関する法制度の仕組み、運用方法や機能、それらを支える理念や倫理観について学習する授業です。本講義では、講義後、受講者にリアクションペーパーを書いてもらっています。そこで示される様々な考えや意見を読み、教員である私自身、いろいろと考えさせられます。
 「人の障害」をテーマとした今回の受講者の感想の中には、「これまでの教育課程は、精神疾患や障害を触れてはいけないようなものと扱っているように感じた」というものがありました。 
 私は、日本社会は、これまで障害者の人権の問題を正面から扱うことから逃げてきた、そして、まだ逃げ続けているように思います。それは、差別的な制度を構築し、これを維持してきた人たちが、未だ大きな権力を握っていることも要因だと思います。けれども、誰だって、自分の無関心によって黙認してしまっている差別があると思います。自分たちの無知に向き合い、そして、勇気を出して声を上げた人たちの話に耳を傾け、課題を考えることが必要だと思います。さらには、声を上げることができない人すらいることに想像をめぐらし、どのように対応しなければならないのか考えてみることも必要だと思います。 
 ある60代女性の事案ですが、客としてホテルに宿泊中、体調不良のため、そのホテルのベッドを汚してしまったところ、この方が、たまたま精神疾患を抱えていたため、精神保健福祉法における強制入院となってしまいました。この事案は、国際連合人権理事会の恣意的拘禁作業部会から精神障害者に対する差別であり国際人権法に違反すると判断されました。
 社会、そして社会を支える法制度は、常に問題状況や過去を省みて変わり続けなければなりません。本講義では、生命に関する法制度をどのように変えていくべきかについても考えます。扱うテーマはいくつかありますが、そのうち一つでも大学卒業後も関心を持ち、考え続ける課題の発見につながれば幸いです。

(サステナビリティ教育研究センター事務局 平林)


強制入院の際に渡される書類

国際連合人権理事会恣意的拘禁作業部会の意見書の表紙