法学部の学び 法学事例紹介
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現行少年法においては、仮に犯罪を犯した少年であっても、原則として『保護処分』の対象になっている。このような仕組みに対しては、犯罪少年を『甘やかしている』という批判がある。
そこで、今日は、保護処分の性格について考えてみよう。
最近、少年犯罪に関する報道が新聞やテレビに頻繁に登場してくるね。
少年犯罪の増加には、いろいろな原因があるかもしれないけど、罪を犯しても保護処分で済ませるといういまの少年法の甘い姿勢に一因があると思うな。
少年といえども、もっと刑罰をもって厳しく臨むべきじゃないかな。
少年犯罪が増えているかどうか、増えたとしてもどういう犯罪が増えているのか、メディアの報道だけではよくわからないのが正直のところね。この点についてはもっと調べてみましょう。
それに、少年は成人と違って、人格がいまだ成熟していないし、社会経験も不足しているわけだから、少年自身が保護されるべき存在だと思うわ。
だから、厳罰論には賛成できないわね。
しかし、その言い方は、あたかも、少年が犯罪に走ったのはすべて周りの環境のせいであって、少年自身には善悪を判断する能力や自分の行動をコントールする能力がないかのように聞こえるよ。
しかし、刑法では14歳以上の者に対して責任能力を認めているじゃないか。
責任を問える少年を保護の客体としてしか見ないのは、まさに少年を甘やかしていると思うな。
たしかに、その批判にどう答えるべきか、よく考えなければならないわね。
しかし、責任を問えるからといって、直ちに刑罰を科すべきだというのも、ちょっと論理の飛躍があるような気がするわ。
成人の犯罪者についても、検察官が起訴猶予で事件を済ませるケースが多いようだけど、それについてはとくに犯罪者を甘やかしているという批判はあまり聞かないじゃない。
たしかにそうだね。
そうなると、責任を問えるかどうかということと、刑罰をもって責任を問うべきだということとは、一応別の問題だということもいえるね。
つまり、責任は刑罰を科す前提ではあるが、刑罰の目的は犯罪を防止することにあるのだから、その目的から刑罰を科す必要がない場合には、犯罪者を起訴猶予にするのも許されるということだと思うわ。
そうだとすれば、少年犯罪の防止のために、刑罰よりも保護処分がより効果的だということであれば、犯罪少年に対して保護処分を課すのも合理的だということになるんじゃないかしら。
しかし、その意見は最初の言い方とすこしニュアンスが違っているね。
保護処分はあくまでも少年を保護するためのものだと言わなかった?
たしかに最初の考え方を少し修正する必要があるわね。
保護処分は、少年の利益をはかるものであっても、同時に、少年の改善更生を通じて社会の利益をはかる処分でもあると思う。
それに、保護処分といえども、それは少年を強制的に少年院に収容するような自由制限を伴うものだから、純粋に利益処分とはいえない面があると思うわ。
その意味では、保護処分といえども、ただ少年を甘やかすものではないね。
そうなると、刑罰かそれとも保護処分かというのは、少年の犯罪防止のためにどれがより効果的かという観点から考えるべき問題だということになるね。しかし、たとえば極めて悪質な殺人事件などの場合は、やはり刑罰をもって臨むべきだろう。
それは否定できないわね。
結局は、刑罰か保護処分かという二者択一的な議論は少し単純すぎる議論だよね。
保護処分と刑罰とに、それぞれどういうメリットとデメリットがあるのか、保護処分と刑罰を、少年の問題性や犯罪の類型に応じてどのように使い分けるのか、そういう具体的な問題についてもっと詳しく調べてみる必要があるね。