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恋愛の社会学:恋の魔法が解けたあとに
小林盾【現代社会学科】

皆さんは、恋愛をしたいと思いますか。それとも、「別に自分には必要ないな」と思いますか。ここでは、社会学の視点から、現代社会における恋愛の役割を、考えてみましょう。

「第二次世界大戦直後の1947年、日本では平均すると1人の女性が4.54人の子どもを産んでいました(合計特殊出生率)。これが、2019年には1.36人へと低下しました。こうした少子化は、なぜ起こったのでしょうか。

「産業構造の変化、価値観の変化、ライフスタイルの変化など、さまざまな要因があることでしょう。私は、そうしたなか、恋愛のあり方に着目しています。どういうことでしょうか。

日本社会では、夫婦以外のあいだでの出産(婚外子)が、きわめて少ないことで有名です。たとえば、2015年で全出産のうち2.3%でした。つまり、ほとんどの子どもが、結婚した夫婦の間に生まれています。いっぽう、夫婦の出会いは、戦後まで見合いが中心でしたが、1960年代に恋愛結婚に逆転され、現代では9割近くの結婚が恋愛結婚となりました(2015年に恋愛結婚が87.3%に対し見合い結婚が5.5%)。

これらのデータを総合すると、子どもをもちたいなら、そのためのメインルートは、まず恋愛し、つぎに結婚し、そのつぎに出産することといえそうです。もちろん、恋愛や結婚や子どもがなくても、豊かな人生を送ることはできるでしょう。ただ、もし子どもを望むなら、我われの前にいわば「恋愛の壁」と「結婚の壁」と「出産の壁」が順に並び、それらをすべて乗りこえた人だけが子どもをもてると考えざるをえないのが、(よい悪いとは別に)現実となっています。

そうだとしたら、子どもをもつためには、恋愛を経験することが避けて通れないはずです。ところが、しばしば「若い人たちが(とくに男性が)草食化して、恋愛をしなくなった」といわれます。本当でしょうか。

そこで、私は1万人以上にアンケート調査を実施して、調べてみました。統計分析をした結果、(30代以下の)若い女性は恋愛経験が減ったわけではありませんでした。若い男性は、しかし、(恋人、デート、キス、性関係のすべてで)40代以上の男性より経験が減っていました(写真1)。男性の草食化がデータで裏付けられて、私もびっくりしたところです(小林他編『変貌する恋愛と結婚:データで読む平成』第1章より)。いわば、「恋愛はよいものだ」「するべきだ」という恋愛の魔法が、解けてしまったようです。恋愛が、必修科目から選択科目へと変わった、ともいえるでしょう。

では、どうしたらよいでしょうか。なにかヒントがえられないかと思い、私はキャバクラ嬢8人へのインタビューを実施しました(写真2)。彼女たちは、いわば客と擬似恋愛をし、その対価をえているわけです。ですから、あたかも客を好きになっているように演じなければなりません。その意味では、恋愛の魔法を、もちろん信じてはいません。信じてはいませんが、恋愛そのものを放棄するかというとそうではなく、「生きるために必須のもの」とか「心の支え」とかと語ります。たとえば、あるキャバクラ嬢は、客に恋愛の「希望をちょっと残す」といいながら、「夜景のみえるバーでデート、みたいなロマンチックな恋愛に憧れるんです」と私に話しました。こうした紡がれた語りは、「恋愛を疑いつつ信じる」あるいは「恋愛から醒めつつ酔う」といった、いっけんすると矛盾するようですが、重層的で豊かな恋愛のとらえ方を示唆します(『変貌する恋愛と結婚』第4章より)。

社会学は社会の成り立ちの危うさ、根拠のなさを、徹底的に暴露してきました。その結果、しかし、かえって殺伐とした世界が広がってしまったのかもしれません。だとしたら、むしろそこを「なかったこと」にして、あえて信じてみる。手品のタネを知っているけど、あえて楽しむ。恋愛を疑いつつ信じる――こうしたいわば大人な態度が、恋愛の魔法がとけた現代において、子どもをほしい人にもそうでない人にも寄り添えるような、恋愛の新しいスタンダードなのかもしれません。

  • 写真1(恋人いた人の割合、2015年、筆者作成)
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  • 写真2(キャバクラ嬢へのインタビュー、右が筆者、許可を得て掲載)