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五千円札(樋口一葉)に贋札疑惑!?
浜田雄介【日本文学科】

2024年の新券からは姿を消すことになるが、現在の日本銀行発行五千円券には、明治の作家樋口一葉の肖像が使われている。その一葉が短い生涯をかけて愛した男性が、「贋造紙幣」を作っていた(?)ことはご存じだろうか。

男性の名は半井桃水。「東京朝日新聞」専属作家で、小説家志望の一葉には「師の君」であったが、二人の心の触れあいは、幸うすい彼女にとって貴重な宝物でもあった。

桃水は、今日では顧みられることもまれになったが、実は端倪すべからざる作品を残している。代表作とされる「胡砂吹く風」は日韓混血の風雲児の活躍を描き、明治の国際情勢、日韓交流史の貴重な証言にもなっているが、彼にはまた、変幻自在に変装をする探偵・長尾拙三を主人公とする探偵小説シリーズがある。

その一編、紙幣贋造をめぐる巨大な組織犯罪を描く「贋造紙幣」は、「霞の笆(まがき)」のタイトルで「東京朝日新聞」に連載されたのち、明治28年金桜堂から刊行された。下は連載時の挿し絵。ちなみに成蹊大学図書館は、未整理資料ながら桃水の自筆葉書を一通、所蔵している。