SPECIAL INTERVIEWvol.107

Special Interview 蹊を成す人

東京海上日動火災保険株式会社
取締役社長

城田 宏明

世のため、人のため、
ひいては自分のために。

「久しぶりですが、本当に雰囲気が良いですよね」と校舎を見上げるのは、2024年に東京海上日動火災保険取締役社長に就任した城田宏明さん。今回の里帰りでは、剣道に打ち込んだ大学時代や、保険会社社長としての思いを語っていただきました。

Profile
1969年生まれ。92年に成蹊大学法学部卒業後、東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険、以下、東京海上日動)に入社。広報部長や営業企画部長を経て、2022年に執行役員となる。

2024年4月には同社取締役社長に就任。同年6月には日本損害保険協会の会長に就任。(2025年6月退任)
剣道部の現部員たちに迎えられて
(本取材は2025年2月に行われたものです)

成蹊は、ずっと付き合っていける仲間や友人に恵まれた場所

成蹊大学を受験したのは、兄の友人が成蹊に通っていて「少人数教育の学校だから学生同士の仲が良くて楽しいよ」と薦めてくれたからです。当時住んでいた横浜からは遠かったものの、受験で初めて訪れた吉祥寺の街の雰囲気がとても気に入りました。歴史を感じる校舎やケヤキ並木も印象的で「ここで学びたい」と心から感じたことを今でもよく覚えています。

入学後は小学生の頃に始めた剣道を続けるために、剣道部に入部。活動は土日も含めて週6日で、ほぼ休みはありません。掃除を終えて帰路につくのは夜9時を過ぎる日も多く、横浜から約2時間かけて通学していた私が帰宅すると、日付が変わっていることも。 そんな時に助けてくれたのが体育会の部活仲間たちです。なかでも同じ武道系の人たちとは仲が良かったですね。練習で遅くなった日は、空手部のほか、なぜか学内では武道系に分類されていた応援団の仲間の下宿先によく泊めてもらっていました(笑)。

文字通り剣道漬けの日々でしたが、田中英夫先生の英米法ゼミのことはよく覚えています。当時にしては珍しいディスカッション中心のゼミで、とにかく毎回議論を重ねます。私自身、意見をはっきり言うタイプだったので、このスタイルが肌に合っていたのでしょう。人と意見を戦わせることの面白さはここで学びました。

ゼミに限らず、多くの授業が少人数制だったのでクラスメイトとは仲が良かったですね。テスト前などには、まるで団体戦のように勉強でも助け合いました。20人ほどの大人数で伊豆や富士五湖へ旅行に行ったことも。部活の仲間やクラスメイトとは今でも交流が続いています。

「剣は人なり、心なり」
が私のなかには息づいている。

自分の強さも弱さも、謙虚に見つめることの大切さ

剣道部では主将を務め、3年次には団体戦で全日本大会に出場する機会を勝ち取りました。成蹊にはスポーツ推薦がないのですが、それでも優れた成績を残せたのは部員が一丸となって練習に励んだからこそです。とにかく誰一人欠けることなく全員で強くなることを目指していました。その背景にあったのは「打って反省、打たれて感謝」という剣道の考え方です。この言葉に示されているのは「常に謙虚であること。相手のことを敬うこと」の大切さ。剣道は、勝ってガッツポーズをしたら相手への礼節を欠く行為として判定が無効になる世界。学生時代の私はそこまで謙虚にはなれませんでしたが(笑)、自分さえ良ければいいのではないという考えは今も私の中にしっかりと息づいています。

剣道から学んだことは本当にたくさんあります。「剣は人なり、心なり」という言葉もそのひとつ。江戸時代の剣客、島田虎之助の格言です。この言葉をもって「剣道には、自分の強いところも弱いところも、すべて出る。だからこそ自分の強さを生かし、弱さも感じながら、修行に励まねばならない」と恩師に教えられました。この言葉を目にすると今でも、謙虚に自分を見つめることが大事だと姿勢を正されますし、同時に、自ら決断したときには躊躇せず、思いきって打ちに出ることの重要性も感じます。

全日本大会に出場した部員とともに。強豪校ではないのに出場できたのは、部員みんなで練習に励んでこその快挙。前列、左から2人目が城田さん

被災した方々の、明日への希望になりたい

大学卒業後は現・東京海上日動に入社し、14年間は営業職として全国各地で働きました。そこから広報部長や営業企画部長などを経験しましたが、なかでも記憶に残っているのは東日本大震災への対応です。地震の際、私は東京の本店にいたのですが、ビルが激しく揺れた直後に飛び込んできた地震速報を目にして「とんでもない災害が起きた」と愕然としました。

災害時、私たち損害保険会社がまずやるべきことは、被害にあわれた方々に速やかに保険金のお支払いをすることです。しかし、あの震災はあまりに規模が大きく、通常のオペレーションでは、皆さんへのお支払いが完了するまでに1年半から2年はかかる見通しでした。一方、被災者の方々は今まさに保険金を必要としており、悠長なことは言っていられません。そこで私たちは、少しでも早く支払うべく議論を重ね、延べ約1万人の社員を全国から東北に投入。現地に出向いて1軒1軒の損傷状況を確認し、支払い額を迅速に決定していきました。決して簡単な仕事ではありません。それでもなんとか全員でやり遂げた結果、約3カ月で93%以上の支払い目途をつけることができました。

その間には、営業開発部(当時)の責任者として、東北と本社をつなぐ緊急対応用のコールセンターを立ち上げたり、被災した現地代理店のための仮設住宅を建てたり、さまざまな特別措置制度を設けます。とにかく全員で「今、何をするべきか」を考え、素早い意思決定をもって対策を講じました。

災害を通じて感じたのは「避難所生活で、明日をどう生きるか途方に暮れる方々にとって、まとまった額の保険金が入るという知らせは『もう一度頑張ろう』という明日への希望になる」ということ。大変な状況でしたが「困っているみなさんに、早く保険金をお届けしたい。少しでもお役に立ちたい」という思いを持って取り組み、当初は実現困難と見られていた早期の保険金支払いを実現できました。この経験によって、皆で強い思いを持って臨めば何事も実現できる、思いは叶うということを実感しました。

6年ぶりとなる剣道場へと案内してくれた現部員たちとともに。なつかしい風景に笑みがこぼれる。おもむろに上着を脱ぎ、腕まくりをして竹刀の感触を確かめると、先ほどまでとは一変、緊張感の漂う剣士のまなざしに。これぞ剣道七段の迫力

何かを成し遂げるためには、仲間を敬い、支え合うこと。

自社だけでなく、業界全体をより良くしたい

2024年の社長就任は青天の霹靂でした。当時、損害保険業界はかつてないほど厳しい状況におかれていた最中のことです。「なぜ私が?」と本当に驚きました。しかし「自らが先頭に立ってこの難局の克服にあたれるのは、捉えようによっては光栄なことだ」とも思えてきたのです。考えれば考えるほど、今だからこそ、やるべきだという思いが強くなり、腹をくくって、この大役を引き受ける決心をしました。

社長就任と同時期に損害保険協会の会長にも就任しました。現在は、業界全体の制度や仕組みの見直しを進めています。まずは、自社はもちろんのこと、業界全体の信頼回復に努めていきたいです。

東京海上日動としては、「お客様や社会の〝いつも〞を支え、〝いざ〞をお守りする」というパーパスのもと、経済的な支援に限らず、新たなサービスの提供にも力を注いでいます。そのひとつが保険の事前事後をカバーする取り組みです。従来なら、保険会社の出番は事故が起きた後がメインでしたが、今後は事故を未然に防ぐアドバイスなどにも手を広げ、保険の前後でお客様のお役に立てる領域を広げていきたいと思っています。その他にも洋上風力や太陽光といったGX事業、増加の一途をたどるサイバー攻撃への対応、人生100年時代におけるヘルスケアなど、保険やソリューションの提供を通じて、持続可能な社会づくりにも貢献していきます。

自らのためだけでなく、すべての人の幸せのために

私を動かしているものは何か、突き詰めて考え辿りついたのは「世のため、人のため。ひいては自分のため。」という考え方です。自分一人の力でできることはそう多くはありません。何かを成し遂げるためには、個々の努力も大切ですが、人を巻き込んだり、助けたり、助けられたりすることがとても大事だと思います。剣道でも仲間を敬い、助け合うことが自分やチームの成長につながると教わってきました。「持ちつ持たれつ」でやっていく、お互いに高め合っていく。それが結果として大きなパフォーマンスを生み出すことに繋がると、今でも強く信じています。

Special contents

おしえて先輩!
大学生との十問十答

成蹊大学剣道部員から届いた、
10の質問で城田先輩の素顔に迫ります!
深~い&鋭い質問に、城田先輩もビックリ!?
感心しながら答えてくれました。
Q 剣道の良さは何ですか?
A 年齢によって変わります。若いときは体力勝負のスポーツ感覚でしたが、歳を重ねると心の勝負のウエイトがすごく高まります。あとは、叫ぶことですごく発散できます(笑)。
Q 仕事で壁にぶつかったときはどう乗り越えますか?
A 壁を破るべく、しつこく粘ることに尽きます。ストレス発散は仲間とのお酒で。もっともストレスがなくても飲みますが(笑)。
Q 城田さんの強みは何ですか?
A 人の好き嫌いがなく、どんなタイプの人とも付き合えるところだと思います。人付き合いにおいてはなるべく人の良いところを見ようとしますね。
Q 座右の銘は何ですか?
A 知行合一ちこうごういつ。理屈とか理論は実践しないと意味がない、実践して初めて理解できるという意味です。どちらか一方では駄目なんですね。
Q 城田さんの弱点は何ですか?
A せっかちなこと。じっと我慢しているのは苦手です。
Q 多忙な中でモチベーションを維持するために意識していることは?
A 運動ですね。最近は、剣道をする時間がとりにくいので散歩をするようにしています。あとは、家族で食事にも行きます。
Q 若い頃に経験して、現在の仕事に生きていることは?
A いろんなバイトを経験したことです。百貨店の食品売り場で働いたり、喫茶店の店員をやったり、造園土木に運送業、居酒屋。各業界がどんなことをやっているかを広く知れました。
Q 経営者として意思決定する際に大切にしていることは?
A バランス良く情報を集めること。その上で、周囲の意見を丁寧に聞きながら、最後は思い切りよく決断します。
Q 社会人になってから「これはやっていて良かった」と思うことは?
A やはり剣道です。昨年までは会社の剣道部の部長でした。社長になってからは少しペースダウンしましたが、自宅付近の道場にも通っています。
Q これからの時代を生きる人に求められる力は何ですか?
A 自ら考えて行動する力。どんな時代になっても、こういう人が様々な課題を解決していくのだと思います。

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