日本文学科の学び

読み解く

卒業論文の事例から:履修学生インタビュー

「忠臣蔵物」とその関連資料からみる義士たちの評価の変遷

ー卒論執筆は四年間の学修の集大成

-「赤穂事件と近世文芸」いうテーマで卒業論文を執筆されていますが、そこで取り上げている作品について教えてください。
A・K:主に取り上げているのは、『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』です。この作品は、歌舞伎や人形浄瑠璃などの芸能として江戸時代の庶民に親しまれ、現在でも上演されています。
江戸時代中期に起こった赤穂事件を題材にした「忠臣蔵物(ちゅうしんぐらもの)」は非常に多く存在していますが、この『仮名手本忠臣蔵』は、その中でも特に人気の高い作品の一つです。
-いつ頃からこのテーマについて卒論を執筆しようと考えていたのでしょうか。
A・K:元々、新選組など江戸時代の武士の存在に憧れがあったことと、三年次後期のゼミで江戸時代の芸能について様々なジャンルの文芸作品を調査した中で「忠臣蔵物」に出会い、当時の武士と文芸の関わりに関心を抱いたことがきっかけです。
江戸時代に実際に起こったこの事件が、文芸作品の題材として当時からリアルタイムで江戸時代の人々に親しまれていたことがわかり、本当に多くの注目を集めていたんだろうなと興味を引かれました。そして、じゃあ実際の事件自体の評価と、文芸として楽しむ中での評価にギャップはあったんだろうか?と知りたくなりました。
-論文はどのように書き進めていったのですか?
A・K:『仮名手本忠臣蔵』は赤穂事件発生から40年以上も後に上演された作品なので、その間に出された書物や資料を読み比べ、事件の扱われ方や武士たちの描かれ方の変化を追うことから始めました。国立国会図書館デジタルコレクションなどのデジタル化資料や図書館の本で調べたり、立川にある国文学研究資料館に足を運び資料を調査したりする中で、最終的には、明治時代の教科書にまで分析を広げることになりました。歌舞伎や落語を実際に観に行ったり、公式YouTubeやネット等で作品を視聴したりもしました。
-明治の教科書まで!幅広く読み比べ・見比べをしたのですね。
A・K:事件発生直後は、学者の間ではどちらかが悪い訳ではなく、赤穂浪士(復讐する側)たちに対しても批判があったのですが、歌舞伎や浄瑠璃などの芸能で盛んに取り上げられて人気を博したストーリーは、赤穂浪士を称賛し吉良上野介(復讐される側)が完全に悪者、というものでした。『仮名手本忠臣蔵』でもヒーローと悪者いう対立構造が確立されています。そして明治の教科書では、赤穂浪士が忠心や忠義のお手本として位置づけられていたと分析しています。
-事件発生時から明治時代まで、随分と解釈が変わっているのに驚きます。
A・K:ギャップがあったのが面白いですし、文芸作品を楽しむ庶民や作者などの"人"の存在が、その後の政治や社会にも影響してしまうくらい大きなものだったんだと気づけたのは、『仮名手本忠臣蔵』という作品だけでなく、事件そのものにも視野を広げたからこそ得られた発見だと思っています。
-卒論執筆を一言で表すと?
A・K:「これまでの学習の集大成」です。1つの作品について深く分析して読み解くという作業にあたって、一・二年次の演習で培った基礎的な力が今すごく役立っているなと感じています。また、私がテーマに選んだ近世の作品や関連資料には現代語訳がないものも多いので、三年次の演習で作品を原文で読み、自分で一から解釈を付ける経験をしたことが活きています。卒論執筆は大変ですが、今までコツコツと学修した大学四年間の経験を活かせばきっと良いものが完成できると信じています。

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