校長ブログ「百代の過客」

夏目漱石コンクール

 夏目漱石が一生を過ごした新宿区では、全国の中高生を対象とした感想文コンクールを実施しています。「令和5年度新宿区夏目漱石コンクール」では、「わたしの漱石、わたしの一行」と題した感想文コンクールにおいて、高校2年生の長汐千有希(ながしおちあき)さんが朝日新聞社賞を受賞しました。高校生だけでも484点の応募があった中、準優勝に当たる賞を受賞した事には、拍手を贈りたいと思います。

 長汐さんは、作品には漱石の「こころ」を選び、「わたしの一行」としては、「カラやカフスと同じ事さ。汚れたのを用いる位なら、一層始から色のついたものを使うがいい。白ければ純白でなくっちゃ。」の部分を選びました。その内容は、下記のURLから感想文を読んでいただけるとわかると思います。

ポスター
吉住新宿区長から賞状を手渡されました!
受賞後の一枚

 新宿区の早稲田大学の近くには、「新宿区立漱石山房記念館」が開館しています。1階には漱石の書斎や客間が復元されており、2階には漱石の草稿や初版本などの展示もされています。隣接する漱石公園には、漱石の胸像の他、皆さんも知っている『吾輩は猫である』が頭をよぎる猫塚なども建てられています。漱石ファンに限らず、一度足を運んでみて下さい。
 最後に、長汐さんの言葉を載せさせて貰います。心を惹きつける言葉が並んでいますので、是非ご一読ください。そして、長汐さん、受賞おめでとうございます!!

漱石山房記念館
猫塚

長汐さんの言葉

 受賞出来て嬉しい、だけでは読んでくださっている貴方が得るものがないと思うので、ここで一つ、私の話にお付き合い頂きましょう。私は元々物を書くのが不得手で、作文に至っては一度も評価されたことはありませんでした。そんな私が、文を書くのが好きになったきっかけは、中2・3の担任の先生と交わした「日直日誌」です。え、あの書くのが億劫な日直日誌だって?そうです。その日直日誌です。私の担任の先生は、「日直日誌にその日あった、面白いことを書いて欲しい」と常々仰っていました。それもその筈、日誌には毎日「今日の授業は、うるさかった。」など授業態度の報告ばかり。なので私は、皆の文章に毎回長文でコメントしていらっしゃる先生に、読んで面白いと思って頂ける文章を書こう!と決意しました。
 それから3年。私は毎回、長文の日誌を書き続けています。毎日、その日あった面白いことを、いかに読んで面白いと思える文章に落とし込むか、に全力を尽くしています。その「相手が読んで面白い文か」を考える力を養ったからこそ、今回は審査員の先生方の目に留まったのではないかと思います。
 では、触れないのもおかしいので、今回書いた作文の話を少しいたしましょう。読んでいただくのが早いので、宜しければ下記のURLからご覧ください。

読者感想文コンクール「わたしの漱石、わたしの一行」

 貴方は綺麗なものが好きですか?新品ものは汚したくないと思ったり、消しゴムを最初に使うのには少し勇気が必要だったり。こゝろの中に出てくる「先生」も同じ気持ちでした。ですが、この世には、意味のある汚れもちゃんとあるんです。勉強を沢山した後に黒くなった手。ノートに残っている、テスト勉強中にこぼしたコーヒーのシミ。どちらも、後で見返した時に、「あの時頑張ったんだなぁ」と思えるのです。貴方の人生においても、何かを汚してしまった経験はあると思います。あの時の汚れは、もしかすると運命的な、重要な意味を持つ汚れなのかもしれませんよ。丁度、私と日直日誌のように。
 最後に、親にも言わず勝手に応募したので、添削などはしていただいていません。なので、私の物を書く力を養う機会を与えてくださった先生方に、ここでお礼を申し上げたいと思います。書くのが憂鬱だった日直日誌に、自由さを与えて下さった中2・3の担任の先生、私の文章を独創的だと言って全肯定して下さった高1の担任の先生に感謝いたします。私の言葉が、誰かの元にこぼれて、染み付いて、それが「意味のある汚れ」になれたら。そんな夢十夜を見ています。

夏目漱石コンクール作品集の表紙
こんなに長い日直日誌は初めて見ました