研究

経済学部井出多加子

地域経済から見る労働市場と不動産市場の一体的視点

労働市場と不動産市場のつながり

 経済学では、住宅を含む不動産市場と労働問題は、別々の分野として詳細に研究されることが多いです。しかし経済全体としてみると、特に日本ではこの2市場は密接に絡みついていて、私たちの生活や働き方、心理面等で大きな影響をもってきました。日本の伝統的働き方は長期雇用を特徴としています。企業も定着インセンティブを高めるため、人材育成や生活面の様々なサポートを行ってきました。同じ場所で長く住み続ける住宅を取得するために、長期の高額な住宅ローンを利用することが合理的でした。金融や税制も、この傾向を支えてきました。そのため、諸外国に比べ転居回数が極めて少なく、自宅を資産として売却する意識は高くなく、利用しなくなった住宅が放置されて空き家となり、市場で取引されません。労働の場合も、経済が変化しても同企業で雇用を守ることが優先され、1つの企業で様々な仕事をこなすため、個々の労働者の評価が難しいという傾向があります。

不動産市場の流動性を高めるために

 どちらの市場も流動性が低く、市場評価に課題がある、という大きな共通点があります。特に不動産市場は日本に特有の傾向が顕著で、1990年代初めのバブル崩壊後に「塩漬け」といわれる活用されていない不動産が大きな問題となってきました。住宅ローンなどが支払えなくなると、債権者の申立てで不動産の差押さえが行われ、競売という裁判所のオークションで換金回収されます。債務者にとっても債務を返済して新生活を始めるために、債務を整理する必要があります。取引件数は少ないですが、不動産市場を法律上支えるきわめて重要な役割を果たしています。過去には権利関係の解消に関するリスクなど多くの課題がありましたが、手続きの簡素化、評価の透明化そして情報開示によって、一般不動産市場に売却するための「仕入れ市場」として期待される機能を果たしてきています。

国際比較からみる日本の働き方の将来像

 地域を元気にするためには、この2市場の活性化を同時に考えることが大切です。住環境をどんなに魅力的にしても、そこに雇用がなければ、住み続けることはできません。コロナ禍で日本を含む世界でテレワークが進展し、住む場所と働く場所の選択が広がりました。その一方で、技術革新は格差を拡大してきています。これらを受けて、世界では不動産市場は底堅く、人気の地域では高値取引がみられるものの、雇用は二極化がすすみ、安心して住み続けることが難しい人々が増えてきています。人口の偏在による地域の格差を是正し、持続可能な社会を生み出すためには、労働市場と不動産市場を一体的に検討して地域住民を主体としながらも観光客などの交流人口や関係人口との繋がりを強固にする新たな仕組みを作り出すことがカギとなるでしょう。

Profile

経済学部

井出多加子

専門分野
地域経済学、不動産経済学
担当授業
国際労働市場、観光と地域、フィールドワークの技法、社会調査の技法

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