法学部髙畑柊子
今日のわたしたちの生活は、行政法と密接にかかわっています。子供が生まれれば戸籍法に基づく出生届が必要となり、自動車を運転するには道路交通法に基づき運転免許を取得しなければなりません。家を建てるときには建築基準法に基づき建築確認の申請をし、飲食店を開業する場合、食品衛生法に基づく営業許可を受ける必要があります。ほかにも医療、介護、教育……行政が関わる領域は極めて多岐にわたります。
他方で、行政の権限が拡大するということは、わたしたちの権利や自由を侵害する可能性が高くなるということも意味しています。そのような事態を事前に防ぎ、あるいは事後に救済するための理論と実装を考究してきたのが、行政法学という学問分野です。そして、行政に対する現代的な統制として重要な地位を占めているのが裁判・訴訟によるコントロールです。裁判所という第三者を介した適法性の統制は、議会による民主的正統性の担保と両輪となって、適時・適切な行政活動の展開を可能とします。
わが国の行政法学者がこれまで解明してきたのは、主に、行政によって何らかの行為がなされたあと、どのような場合に裁判所に訴え出ることができるのか、そして、どのような基準で判断を下すべきかという問題でした。ところが、行政訴訟は、民事訴訟や刑事訴訟とは異なり、権力分立原理のもと、裁判所が介入できる場面が限られています。そのため、訴訟が終結してもなお、根本的な問題は解決せず、再度行政による応答を必要とすることが少なくありません。果たして行政は、裁判のあとに、何をどこまですることができ、またはすべきなのか。それをどのように担保していくのか――。こうした問題意識をもって、研究を続けてきました。
ひとつの鍵として考えているのが「適法性の原理」という行政法の伝統的な理論です。そして、この“行政は法のもとでのみ活動することができる”というシンプルな法原理を、堅固な武器として磨き上げ、人々の権利・自由を保護してきたのが、行政法の“母国”フランスです。法制度や法意識の違いも含め、フランス法が、行政過程から裁判過程、そして再度行政過程へという一連の流れにおいて、何を目指し、どのような試行錯誤を重ねてきたのかを理論的かつ実証的に解明していくことは、日本法の研究にも有益な示唆をもたらすと信じ、探究を続けています。
【パリ/コンセイユ・デタ(最高行政裁判所)の建物が入るパレ・ロワイヤル】
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