経済学部松本貴典
現在、日本ほか先進国の産業で最も比重の大きいの分野は第三次産業です。しかし、日本の経済発展における第三次産業の発展については、そもそも有用な統計が存在せず、その実態が不明でした。
理由は、たとえば、農業や水産業は収穫高が分かり、製造業は生産高が分かりますが、第三次産業つまり商業やサービス業の生産は統計として捉えにくかったのためです。実際、高校までの教科書にも、日本の経済発展における鉄鋼業や繊維産業の記述はあっても、こうした在来的な産業への言及はありません。
しかしながら、円グラフにからわかるように、在来部門に属する有業者は非農業有業者の3分の2に達しており、日本の経済発展において中小規模の業者が担う部分は圧倒的に大きいのです。
こうした研究水準の現状にあって、統計的な制約のため、この在来産業部門は「大いなる未解明領域」として残されていました。私の研究は、近代日本の経済発展研究の中で最も研究蓄積の薄い在来的な第三次産業の発展を、営業税を用いて数量的に解明することを目的としています。
分析対象となる業種は、物品販売業、問屋業、運送業、労力・土木請負業、金銭貸付業、物品貸付業、観光業、料理店業などなど30業種にも及ぶ、従来ほとんど解明されてこなかった産業です。
出典:松本貴典・奥田都子「戦前期日本における在来産業の全国展開――営業税データによる数量的分析――」(中村隆英編著『日本の経済発展と在来産業』第Ⅰ部、山川出版社、1997年)
ここでは具体的に在来的な運輸業について、その発展をみておきましょう。
一般的に、在来的で中小規模の産業は近代産業の発展とともに代替されていくものと考えられていました。しかしながら、実際には、在来産業は近代産業と相互依存と補完関係にあり、両産業は車の両輪のごとく、日本経済の発展に大きく寄与しました。
このグラフからもわかるように、在来的な運輸業が近代産業としての鉄道業や海運業に置き換えられていくどころか、その軌を一にして発展しているのです。
出典:松本貴典「近代日本における在来運輸業の全国展開――在来サービス産業の発展の一事例として――」(『大阪大学経済学』第54巻第3号、193-218頁、2004年)
私の研究の基礎データとなる営業税は、全府県についてデータが得られます。営業税法の変更がしばしばあり、また免税措置を受ける業者も多いので取り扱いがやっかいですが、このデータにも依拠しながら、研究史上初となる100年前の県民所得および一人あたり県民所得の推計を行うことができました。
この図は県民所得推計の結果をまとめたものですが、現在よりも東京と京阪神の経済規模が大きく、一方で地方県の経済規模が小さいという、大きな地域経済発展格差があったことが初めて実証されました。
出典:松本貴典「近代日本の地域経済発展――地域産業連関表によるアプローチ――」(松本貴典編著『生産と流通の近代像――100年前の日本――』第1章、日本評論社、2004年)85頁
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