研究

経済学部財城真寿美

気温日変化を考慮した19世紀気象観測データの均質化と日本における気温変動の分析

江戸時代後期から明治時代にかけての気象観測記録の発見と整備

日本では、公式の気象観測が1872年(明治5年)に函館気候測量所(現:函館地方気象台)で開始されましたが、それ以前にも19世紀前半の江戸時代後期から各地で気象観測が行われていたことを、これまでの調査・研究で明らかにしてきました。例えば、シーボルト(P.F. von Siebold)が1820年代以降に長崎の出島や江戸で観測していた記録(図1)や、ローマ字の表記法を考案したヘボン(J.C. Hepburn)が開港直後の横浜で観測していた記録、徳川幕府の天文方が暦づくりための天文観測の一環として行っていた気象観測の記録など様々です。また、東アジアや東南アジアなどでも、公式の気象観測所設立前から旧宗主国による観測記録が紙資料のまま残されていますが、それらは放っておくと散逸したり劣化したりして解読不可能となってしまいます。そのような世界各地に残された古い気象観測記録を収集し、画像や数値データとしてデジタル化する活動は、「データ・レスキュー」と呼ばれ、世界中の気象機関・研究者が熱心に取り組んでいます。

図1:シーボルトによる1825年9月の江戸(Jedo)と長崎(Nagasaki)における気温と気圧の観測記録

古い気象データと気象庁データをつなぐための均質化手法の検討

これまでに収集した19世紀の古い気象データの大半は、観測点が近隣の気象庁の官署から離れていたり、日中に数回しか観測されておらず、それぞれのデータの質が異なる(不均質性がある)ために、日平均値や月平均値を現在の気象庁データと単純に連結して比較できないという問題があります。その不均質性を修正するための方法(特に気温)に関して、これまで検討されてきた月平均値に関するものに加えて、現在は日平均値を均質化する手法を新たに考案することを目的としています。具体的には,統計分析を使用した方法と様々な環境条件のもとで実際に気象観測を行いそのデータを分析する方法を実施しています。これにより、これまで均質な日別データがなかったために議論されてこなかった長期にわたる気温の日単位の極端値(最高気温,最低気温など)の特徴や変動について、定量的な議論が期待されます。

図2:函館市内数カ所の小学校の百葉箱内に温度ロガーを設置して気象観測を実施

「小氷期」から「地球温暖化」へー気候変動の特徴解明に向けて

地球規模で温暖化が進む近年、日単位で生じる極端気象の変化が注目されており、19世紀の気温の極端値について知見を得ることは、将来の極端気象の予測にも役立つといえるでしょう。また江戸時代から明治時代にかけては、「小氷期」と呼ばれる世界的に寒冷な気候だった時期にあたり、江戸(東京)でも頻繁に積雪があったり,河川が凍結したりすることもありました。この小氷期の気候の特徴を解明することは、その後の地球温暖化を評価するうえでもとても重要です。

図3:「新撰江戸名所 日本橋雪晴ノ図」国立国会図書館デジタルコレクションより

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経済学部

財城真寿美

専門分野
気候学,自然地理学,地理情報科学
担当授業
地球と環境(教養カリ),気象と地球環境(教養カリ),自然地理学(教職科目),地球環境問題,GISゼミナール,プレゼンテーション演習,基礎ゼミナール,上級演習I・II,卒業研究

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