研究

文学部浜田雄介

近代日本探偵小説研究の基盤整備

 探偵小説には熱心な愛好家も多く、今日では研究の拠り所となるホームページを運営する人々もいます。さまざまな研究スタイルがある中で、あえて私たち大学人の研究の、立場からくる特徴があるとすれば、人文学の一翼を担う者として、探偵小説を研究していることでしょう。

 人文学とは、つまるところ「我々は何者なのか」という問いへの挑戦です。たとえば明治期の探偵実話(写真)は、戸籍を含む法や警察機構の整備の進む時代を背景に流行しました。捕物帖が生まれたのは、江戸という時代が郷愁の対象となった大正期です。それぞれの時代に私たち人間は探偵小説に何を求めてきたのでしょう。今日との違いはあるのでしょうか。そんな風に、人文学は探偵小説を――作品、作者、読者、時代等々を、読んでゆきます。

 1970年代の知をめぐる理論の地殻変動と異端文学の復権を経て、アカデミズムが探偵小説を対象とし始める80年代に、私は大学院に進み、戦前に探偵小説の牙城であった雑誌『新青年』の研究を始めました。私の出発点は作品論でしたが、『新青年』研究会というグループに加わって先達や仲間たちと雑誌を読み返すうちに次第に視野は広がり、気がつけば30年以上の年月が流れ、研究会では何冊かの本や機関誌を編集していました(写真)。

 大学教員という立場にあると、さまざまな研究上の出会いがあります。成蹊大学図書館は、蔵書家の寄贈を受け入れてミステリSFコレクションを創設し、夢野久作とその父杉山茂丸の書簡や小栗虫太郎の原稿類を購入し、それらをもとに「成蹊ミステリ・フォーラム」(2013年)、「探偵小説の系譜」(2015年)、「小栗虫太郎 PANDEMONIUM(大魔城)の扉を開く」(2017年)などの企画展を開催し、また神奈川近代文学館の企画展『永遠に「新青年」なるもの」(2021年)の展示に協力するなど、研究のために多くの尽力をしてくれています。大学教員として、私もちょっぴりお手伝いしたりしています(写真)。

 今日、成蹊の他にも、立教大学や二松學舍大学など、いくつかの大学が探偵小説関係資料を蔵するようになって来ていますし、探偵小説を研究する大学教員も増えています。2019年、それらの人々と、「近代日本探偵小説研究の基盤整備」という共同研究を始めました。大学により研究者により事情も異なるので、わかりやすい形での成果は難しいのですが、現在共同で『宝石』の復刻作業を進め、また成蹊では小栗虫太郎原稿類(写真)の文字起こしを進めています。

Profile

文学部

浜田雄介

専門分野
近代日本文学
担当授業
日本文学研究の基礎、文学作品をどう読むか、近現代文学基礎研究、日本文学演習、近代文学演習

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