研究

理工学部青柳里果

計測データへのAI技術応用による隠れた物理化学情報の探索

質量イメージングデータの解析

 試料中で、どの分子がどこに分布しているのか3次元で示すことのできる質量イメージングデータを解析対象としています。二次イオン質量分析(SIMS)を用いると、あらかじめどのような分子が存在しているのかわからなくても、未知分子を特定して、その3次元分布を明らかにできます。ただし、分子を特定するためにはSIMSデータを詳しく解釈する必要があり、その解釈が難しいことが多いので、AI技術を応用して生体試料の測定データのような複雑なデータを解釈します。

Atsumi Shinozaki, Kazuhiro Matsuda, Satoka Aoyagi, Analysis of time-of-flight secondary ion mass spectrometry data of human skin treated with diclofenac using sparse autoencoder, Analytical Bioanalytical Chemistry, 417(6):1049-1054 (2025). DOI: 10.1007/s00216-024-05711-0

A I技術による物理化学法則への接近

 材料や生体試料の中では様々な物理化学現象が起きています。測定データには試料中の物質だけでなくその背景の物理化学法則も包括する情報が含まれています。試料の状態を正しく評価できるように、測定データを解釈するためには既存の解析システムを適用するだけでは不十分で、目的の情報を引き出せる解析システムの開発が必要です。そのような数値解析法の開発を通じて、試料や計測過程で生じている物理化学現象の解明が進む場合があります。

Satoka Aoyagi, David J. H. Cant, Michael Durr, Anya Eyres, Sarah Fearn, Ian S. Gilmore, Shin-ichi Iida, Reiko Ikeda, Kazutaka Ishikawa, Matija Lagator, Nicholas Lockyer, Philip Keller, Kazuhiro Matsuda, Yohei Murayama, Masayuki Okamoto, Benjamen P. Reed, Alexander G. Shard, Akio Takano, Gustavo F. Trindade, and Jean-Luc Vorng, “Quantitative and Qualitative Analyses of Mass Spectra of OEL Materials by Artificial Neural Network and Interface Evaluation: Results from a VAMAS Interlaboratory Study”, Analytical Chemistry, 95, 40, 15078-15085 (2023). DOI: 10.1021/acs.analchem.3c03173

複数装置のイメージデータフュージョン

 どんなに素晴らしい先端計測装置でも、一台の装置だけで知りたいことがすべてわかることはほとんどありません。装置(測定法)によって得られる情報が異なります。知りたい情報それぞれを与えてくれる複数の測定装置で同じ試料を測定して、各データを統合して一つのデータとして解析すると、単独の装置からでは得られない情報を得ることができます。例えば、高解像度の顕微鏡は形状情報が詳細に得られますが分子分布はわからず、SIMSは分子分布が分かりますが画像の解像度が劣ります。これらをイメージフュージョンしてAI技術で解析すると高い解像度で分子分布が示されます。また、金属試料中を水素などがどのように拡散するか知るためには、水素の分布と金属の構造情報の両方が必要なのですが、一つの測定法で両方を得ることはできません。別々に取得したデータをイメージフュージョンしてAI技術で解析すると、単独の手法からでは知ることのできない、結晶構造と水素透過の特性との関係を導き出すことができます(T. Akiyama, N. Miyauchi, A. N. Itakura, T. Yamagishi, S. Aoyagi, JVST B, 38, 034007, 2020)。

Satoka Aoyagi, Yuuki Kodama, Melissa K. Passarelli, Jean-Luc Vorng, Tomoko Kawashima, Keisuke Yoshikiyo, Tatsuyuki Yamamoto and Ian S. Gilmore, "OrbiSIMS imaging identifies molecular constituents of the perialgal vacuole membrane of Paramecium bursaria with symbiotic Chlorella variabilis", Analytical Chemistry, 91(22), 14545-14551, (2019). DOI: 10.1021/acs.analchem.9b03571

Profile

理工学部

青柳里果

専門分野
分析・計測、AI技術・機械学習
担当授業
電気電子計測、確率統計基礎、電気数学、電子固体物性

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