経営学部田口誠
気候変動や海洋汚染,生態系の破壊などの様々なタイプの自然環境問題が深刻化する中で企業は問題への対応を迫られています。これらの環境問題は人や社会にとって深刻な悪影響を及ぼす可能性があることはもちろんですが,経営学や企業経営の観点から見ても問題を放置することにはリスクが伴います。近年では,消費者は自然環境に配慮した商品や企業を好む傾向が強くなり,投資家は環境問題に適切に対応できる企業を高く評価し,政府は環境汚染する企業により多くのコストがかかる政策を導入するからです。
環境問題は広く社会的な側面から根本的な問題解決を図る必要があることを認識しながらも,研究では企業が自社の利益を確保するためにどのような戦略を採るべきなのかについて,おもにマーケティングや消費者行動の分野の理論を応用して研究しています。
自然には経済価値があります。漁業資源を保全すれば将来的に育った魚を捕獲して市場で売り,お金に換えることができます。また,森林には光合成によって二酸化炭素を吸収する機能があるため,森林を維持することで他の代替的な手段によって同様の効果を得るために支出する費用をそれだけ削減することができます。
このような客観的でわかりやすい価値は広く認識・評価され,意思決定の際にも計算に含められるようになる一方で,自然には多様な価値が含まれており,中には見逃されやすく,より複雑な内容の価値もあると考えています。その一例として,自分の過去の経験にもとづいてある自然豊かな場所がその人にとって重要な場所となり,その場所を残したいと感じるケースがあると思います。このような場合,個人的に意味のある場所に対して,人は何らかの価値を置いていると考えられるのではないでしょうか。ある同じ場所であっても,個人が経験にもとづいて異なる価値を置いているのならば,その場所(自然)の持つ価値には一見するよりも複雑な内容を含むことになります。人が個人としてどのように特定の場所を見たり感じたりしているのかを明らかにし,このような側面を採り入れた自然保護のあり方について研究しています。
自然が持つ多様な価値のひとつである美的価値に注目して研究しています。
特に日本独自の美的概念や,日本の自然観の変遷を,西洋との比較を意識しながら明らかにすることを目標としています。経済的に役立つから自然を守るのではなく,美しいと感じるから価値あるものとして守っていくという視点も重要ではないかと考え,歴史的な文献をもとにして自然の持つ美的な側面について調査しています。
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