WEBドラマ 経済数理学科編の解説

私にできること
〜数理分析で紐解くPK戦〜

第1話
「PK戦は五分五分?」の解説
PKでのゴール阻止の難しさ

マサトに、PK戦での敗戦に責任がないことは明らかです。キーパーが飛ぶ方向にボールが飛んでくるかどうかは「時の運」に左右されるし、PKでのゴール阻止率はプロリーグでも20%程度と低いものなのです。

とは言え、PK戦前まで何度も「神の右手」で大活躍していたマサトが、PK戦では一転して精彩を欠いたのも事実です。マサトは、「神の右手」を活用するためにPKでは右側に多めに飛んでいるとエリカに言っています。この考え方は本当に理に適っているのでしょうか。

第2話
「ゲーム理論でセーブ率を上げる」の解説
PKとゲーム理論

ゲーム理論は、チェスのようなゲームを分析するために数学者が発案し、主に経済学の中で発展を遂げてきた思考方法です。世の中は、駆け引き(=ゲーム)に溢れていますが、ゲーム理論では駆け引きを数学的に表現し、それに勝つにはどのような戦略を取るべきかなどを分析します。

エリカのゼミでも登場した「ジャンケン」は、表1のような利得表で表されます。プレイヤーは教授と学生であり、各プレイヤーともグー・チョキ・パーの戦略を持ちます。合計9つの各セルには、両プレイヤーの利得(得点のこと)が記されています。ジャンケンでの最適な戦略は、グー・チョキ―・パーをそれぞれ1/3の確率で出すという混合戦略です。

ジャンケンとPKに類似性を見出したエリカは、PKをゲーム理論で分析しようとしました。エリカとコユキが過去の試合映像を解析して割り出したPKの利得表が表2です。キッカーもキーパーも、左・右の戦略を持ちます。キッカーの利得はPK成功率、キーパーの利得はゴール阻止率です(よって、どのセルでも合計は1です)。
マサトが飛んだ方向の逆側に蹴られた場合には、ゴール阻止率は0.1です。一方、マサトが飛んだ方向と同じ方向に蹴られた場合のゴール阻止率は、マサトが左側に飛んだ時には0.4ですが、「神の右手」を活かせる右側に飛んだ時には0.8と高くなっています。

第3話
「勝利のゆくえ」の解説
ゲーム理論によるゴール阻止率の最大化

図1は、表2を基に、マサトの最適な混合戦略を図解したものです。横軸のpはマサトが右に飛ぶ確率を表し、縦軸はゴール阻止率を表しています。キッカーはゴール阻止率が小さくなるように左右をキックを蹴り分け、マサトはゴール阻止率が大きくなるように右に飛ぶ確率pを選ぶのです。

マサトは今まで右にばかり飛んでいました(p≈1、p≦1)。それでは、敵のキッカーに逆の左側に蹴られることになり、結果として「神の右手」は全く活かせず、ゴール阻止率はわずか10%程度だったことが読み取れます(点A)。

では、ちょうど左右半々に飛ぶこと(p=0.5)がマサトにとって最適でしょうか。いいえ、マサトが左右半々に飛ぶならば、「神の右手」を恐れる敵チームはマサトの左側に蹴ることを選び、やはり「神の右手」は全く活かせず、ゴール阻止率は25%にしかなりません(点B)。

マサトにとって最適な混合戦略は、右に確率0.3で飛ぶこと(p=0.5)であり、ゴール阻止率は31%と最大化されます(点C)。右側ばかりに飛ぶ場合(点A)と比較すると、何と21ポイントの阻止率増加となります。「神の右手」の有効活用のためには右側へ飛ぶ確率をあえて小さくせよ、という少し意外な結論がゲーム理論により導き出されたのでした。

解説

吉田由寛教授

研究分野

ミクロ経済学、ゲーム理論