文学部小林盾
恋愛、結婚、仕事、趣味、食べ物、幸せ――こうしたライフコース(生き方)やライフスタイルは、人びとのあいだで平等なのでしょうか。それとも、不平等で格差があるのでしょうか。この研究は、これらを統計データやフィールドワークに基づいて科学的に解明しています。
一見すると、どれも個人的なことがらですので、みな自由に行っていて、不平等などどこにもないように思えます。しかし、それゆえにもしかしたら、年齢や性別や収入によって偏りがあり、深刻な格差があったとしても、ともすれば見すごされてきたかもしれません。
そこで、この研究では2015年と2018年に全国でアンケート調査を実施し、データを統計分析しました(写真1はアンケートの様子、右が筆者)。教育や職業や収入といったグループは「社会階層」と呼ばれ、社会階層による不平等は「格差」といいます。
どのようなことが分かったでしょうか。しばしば、若い男性は「草食化」して、恋愛に消極的になったといわれます。分析の結果、たしかにそのとおりで、若い男性ほど恋人、デート、キスなどの経験が、少なくなっていました。女性はどうでしょうか。女性は若い人でも変化ないか、むしろ増えていました(『変貌する恋愛と結婚』,写真2)。
食べ物に不自由しない現代社会において、なにを食べるかはもっとも個人的な自由の1つでしょう。データ分析の結果、しかし、教育や収入が高い人ほど野菜をよく食べるし、ひじきやのりなどの海藻をたくさん食べていました(『ライフスタイルの社会学』,写真3)。「階層格差」がここでは「海藻格差」として現れています。
人びとのルックス(容姿,見た目)はどうでしょう。ルックスの統計分析をしたところ、教育が高い人ほど、正社員の人ほど、収入が多い人ほど、それぞれルックスがよいことが分かりました(『美容資本』,写真4)。
このように、人びとのライフコースやライフスタイルには明確なパターンがあり、教育や収入が高い人ほど一貫して有利になっていました。他にも、結婚、仕事、趣味、幸せなどに、同様の格差があります。社会が豊かになって多様化したため、かえって格差が拡がったのかもしれません。
格差の問題は、とくに経済的に厳しい「貧困層」に、顕著に現れます。そこで、筆者は貧困支援団体に参加し、フィールドワーク(参与観察)を行っています。写真5は,困窮世帯への食料の無料配布をしているところです(左が筆者)。他に、困窮世帯の子どもへの学習支援、ひとり親への就職支援などに参加しています。いつも、貧困問題の深刻さに驚かされます。
並行して、海外でのインタビュー調査を続けてきました(写真6がモンゴル人の自宅ゲルでの様子、左から2人目が筆者)。こうした国際比較なしに、日本社会の位置づけを明らかにすることはできません。
なお、この研究は「ライフコース格差研究プロジェクト」という、私が代表の大きなプロジェクトの一部です.データ収集では,私が所長を務める成蹊大学社会調査研究所と密接に連携しました。得られた成果は、ゼミや社会調査演習といった授業で紹介します。学生からのフレッシュなアイディアをつぎの調査で調べ、さらにその結果を授業でディスカッションする――幸いなことに、研究と授業のこのような好循環が生まれています。
自由だが平等ではない社会のなかで、弱者の不安や痛みに寄りそいながら、本当に豊かな社会とはなにかを考える――みなさんも、私の本や授業をとおして、一緒に研究を進めませんか。
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