研究

理工学部櫻田武

脳の個性を考慮した認知・運動機能訓練システムの開発とその実用化

個々人の脳機能における多様性

 最近よく耳にする“多様性”は脳にも存在しています。ここではもう少し柔らかく“個性”と呼ぶこととしますが、例えば、運動をする時にどこへ注意を向ければ良いかについては、個々人で異なります。バスケのフリースローであれば、自分の手首の動きに注意を向けるとうまくいく人と、ゴールリングに注意を向けるとうまくいく人に分かれます。つまり、自分の体の動きを注意するのが得意な脳を持つ人もいれば、外の環境に注意を向けるのが得意な脳を持つ人もいるということです。さらに、運動中に特定の対象へ注意を向けた際の脳活動を計測すると、注意に関する個性に応じて前頭前野の活動パターンなどが大きく異なることも明らかとなっています。
 このように、自分がどのような脳の個性を持っているかを把握することは、運動や認知のパフォーマンスを最大限発揮するのに非常に重要です。

図1 脳の個性を反映する前頭前野活動の一例

脳機能向上に有効なニューロフィードバック

 脳の個性が把握できたなら、今度は必要に応じて訓練をすることも重要となります。個々人の脳において、得意な部分をより伸ばしたり、逆に苦手な部分を補強したりすれば、その人に適した効率的な脳機能訓練が実現できます。
 このような脳機能を向上させる手段の一つとして「ニューロフィードバック」と呼ばれる技術があります。これは、計測した脳活動をその場で解析し、リアルタイムで本人へ提示するものです。普段意識することのできない自身の脳活動を、映像や音の情報としてフィードバックすることで適切な脳活動を獲得し、最終的に脳機能を向上させます。現在、このニューロフィードバック技術を活用し、思い通りに注意をコントロールできるようになる訓練システムの開発と効果実証を進めています。

図2 脳波からリアルタイムに注意状態を推定するニューロフィードバック訓練システム

堅実な訓練効果と使い易さを併せ持つシステムの提案へ

 ニューロフィードバックによる注意機能訓練システムの研究はまだまだ道半ばです。しかしながら将来的には、科学的知見に裏付けされたうえで、誰にでも利用できる実用的なシステムとして提案していきたいと考えています。現在そのプロトタイプは完成しつつあり、個人が所有するスマートデバイスを利用して訓練できるよう実装を進めています。マイコンなどを用いているので、システム全体としても非常にコンパクトにまとまっています。さらには、システムをインターネットに接続することで、訓練者個人が自宅で利用しつつも遠隔(オンライン)でケアを受けられるようにする機能を組み込むなど、IoT技術に基づく使い易さも併せ持ちます。今後、小型化・オンライン化などによって、リハビリテーションやスポーツなど現場への適用もしやすくなると期待しています。

図3 小型化・オンライン化された新しい個人利用型訓練システム


Profile

理工学部

櫻田武

専門分野
ニューロリハビリテーション,生体医工学,ライフサイエンス,知覚・認知情報処理
担当授業
設計工学,計測工学,応用Pythonプログラミング

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