2017年02月10日
(文学部日本文学科)
(文学部日本文学科 3年)
(文学部日本文学科 4年)
(文学部日本文学科 3年)
ー 最初に、平野ゼミの研究分野についてお聞かせ願えますか。
平野先生 鎌倉・室町時代を中心とする中世文学を対象に研究しています。その頃の作品というと『徒然草』や『平家物語』、『宇治拾遺物語』などが有名ですね。今年度は〈御伽草子〉といわれる室町時代から江戸時代にかけて作られた短編の物語をテーマに取り上げ、学生が各自好きな作品を選んで研究するということをやっています。
古典を研究する面白さは、大きく二つあると思います。ひとつは、遠い昔の「異文化」を知り、現代とは違う視点を学ぶこと。もうひとつは、同じ日本の文化として変わらないものを学ぶこと。違いを知ることも確かに大切ですが、たとえ500年前、1000年前の作品であっても、そこには今も必要なエッセンスが残っている。だからこそずっと読み継がれてきたとも言えます。そういう、現代に生きるもの、生かせるものを、掘り起こしていきたいと考えています。
ー 学生の皆さんは、どのような動機で平野ゼミを志望したんですか。
山本 4年の山本です。ゼミを選ぶ前に平野先生の講義を受け、先生が国語科教育に非常に熱心に力を入れていると感じました。私は教員になりたいという目標があったので、先生の教育に対する視点を学びたいと思ったのが志望の大きな理由です。
龍 3年の龍です。僕はゼミを選ぶ時に一番重視したのは、指導してくださる先生でした。2年生の間に色々な先生方の授業を一通り受けたんですが、その時にいちばん発言や議論がしやすく、積極的に学べると思ったのが平野先生だったんです。
末松 同じく3年の末松です。私も1、2年生の時にいくつかゼミ形式の授業を受けました。その中でも、平野先生の授業は特に、学生が参加するような楽しい授業だったんです。もともと古典が好きということもありましたが、研究を2年間続けていくには、楽しく学ぶって大事だなと思い志望しました。
ー 学生の皆さんは平野先生の指導にとても魅力を感じているようですね。先生はどのような方針でゼミの運営や指導をされていらっしゃるんでしょう。
平野先生 今みんなが言ってくれたように、やはり一人ひとりが発言しやすい環境、間違っても変なことを言っても許される安心な場所を作るように心掛けています。
そして、古典文学の教育における「アクティブラーニング」の実践ですね。「アクティブラーニング」は教育の現場では近年話題になっていて、簡単に説明すると、単なる受け身の講義ではなく、学ぶ者が能動的に頭を使って主体的に学んでいく学修方法です。例えば、『徒然草』で兼好法師が結婚なんてするものじゃないと言っている。「ではあなたは結婚したいか、したくないか、それはなぜか」というような質問を立て、ディスカッションをし、兼好法師が言いたいことをみんなで考えていく。自分事として古典文学を学ぶというか、古典文学を体験するというか。そうした、学生が主体的に古典に参加できるような仕掛けをいつも考えています。
ー 平野ゼミでは欅祭(大学祭)で、「歌占」というものを出展されています。これはどういったものなんですか。
平野先生 日本では古くから神様は和歌を詠むと考えられていて、ご託宣の和歌が平安時代ぐらいからたくさん詠まれています。歌占は和歌を通して吉凶を占うもので、私たちは安倍晴明がつくったという伝承をもつ和歌占いの本『晴明歌占』をベースにしました。活字になっていない本なので、まずは昔の崩し字を読み解くところから始め、それから訳し、現代風に解釈していく。大変な作業でかなり時間がかかりましたね。
山本 それを使って、欅祭に訪れたお客様を私たちが実際に占ったんです。八卦×八卦、64首の中から選ばれた1首を、お客様に応じて解釈して伝える...。中世日本文学ゼミの学びを外に発信するということが、この取り組みのコンセプトです。
平野先生 今までの教育はインプットが重視されがちでしたが、アウトプットすることもすごく大事だと思うんです。学んだことを自分で表現したり、人に伝えたり。うまく伝えられないものは、結局ものにできていないということ。そういう意味で、和歌をちゃんと理解した上で対象者それぞれに応じて解釈を伝えるという経験は、学生にとって非常に為になると思いました。その発信の場として、まず大学祭があったんです。
ー 歌占の取り組みも、まさにアクティブラーニングですね。苦労や喜びなど、何かエピソードがありましたら聞かせてください。
山本 お客様が占いたい内容に沿って解釈を分かりやすく伝えるのは、すごく頭を使う作業でした。時にはご年配の方がいたり、子供がいたり。一人ひとりの気持ちに寄りそって、その人に合った言葉で伝えていくのが、なかなか大変でした。
末松 占ってほしいと言われた内容が重すぎるとまた大変なんです(笑)。相当ご高齢の方に、来年も大丈夫でしょうかと聞かれたり、訴訟を抱えているけど勝てるかと聞かれたり...。和歌も吉凶あって、いい内容ばかりではないので...。言葉を選びうまく伝えるように心がけました。お客様にとても喜んでもらえたようでうれしかったです。
龍 ありがたいことに欅祭の出展にはたくさんの人に来ていただいて。2日間で約1,400人です。受付と占う人でローテーションを組んで対応しましたが、絶えないお客様にてんやわんやでした。気付かずに学長を占っていたということも(笑)。大人数を占うのは大変でしたが、お客様の反応が明確に伝わってくるのは刺激的な経験でした。
平野先生 歌占の出展は今回(2016年度)で3回目。毎年来てくださる方もいてお客様は年々増えています。以前は占いの結果を示す紙を渡すだけで終わる場合もあったんですが、今回はほとんどの方に直接解説をしていて、傍で見ていて立派だなと思いました。ちなみに、数ある出展団体の中から学長賞に選ばれて、学生の対応が良かったという講評をいただきました。
欅祭(大学祭)に平野ゼミのメンバーで「晴明歌占」を出展し、
数ある出展団体の中から学長賞を受賞
ー 大成功でしたね。歌占の魅力はどんなところにあるんでしょう。
末松 占う人と占われる人の間に、和歌という一つの媒体があるところです。歌占は解釈に自由度があり、占う人によって結果が違ってくる点が面白いと思います。
龍 自分の解釈だけでなく、会話を通じてお客様の情報が増え、解釈の可能性がどんどん広がっていく。お客様も解釈に参加できるような感じが魅力ですね。
山本 日本人は百人一首などで和歌には触れるんですが、多くの人は学校を出ると疎遠になっていきます。歌占は日本人にとって親しみが持てる占いであるとともに、日本文化を見つめ直す機会をくれる。過去と現代をつないでくれるアイテムになる。そこが魅力です。
平野先生 私たちの歌占は教室から外に出ましたが、今後はさらに外に出て行きたい。街の中に出たり、外のイベントで披露したり。この歌占を通して、もっとたくさんの方に和歌や日本の伝統文化に関心を持ってもらいたいと思っています。
ー 歌占を離れたところで、中世日本文学あるいは平野ゼミでの学びについて教えていただけますか。
龍 僕は中世文学には真新しさを感じました。奇抜な、ファンタジーみたいな物語展開があり、その中に日本人の根底にある文化が読み取れたりする。学んでいて面白いです。平野ゼミに入ってからは発言が増えましたね。積極的な学びの姿勢ができたことは大きな成長だと思います。
山本 文学に対する視点が増えたように思います。ゼミでは意見交換が活発なので、ああ、そういう見方もあるんだという発見の日々です。文学に限らず物事をいろんな視点で見ようとするようになってきた、それが平野先生のゼミでの大きな収穫だと思います。
末松 いちばん思うのは、様々な人とひとつのものを考えることの面白さ。このゼミは全員で何かをやっているという感じがすごくする。温かい雰囲気があり、ゼミに来るのがとても好きです。
平野先生 いま三人が言ってくれたことは、すごく嬉しいですね。文学の研究って割と個人作業が多い。でも私は、一人じゃ見えないことをみんなで見えるようにすることが、ゼミの学びの面白さかなって思うんです。チームで古典文学を学ぶ仕組みをもっと発展させていきたいですね。
ー 最後になりますが、成蹊大学の魅力をひと言ずつお願いします。
末松 少人数教育で自分の考えを出す機会が多く、先生との距離が近い点です。
龍 ワンキャンパスなので他学部の学生との出会いが多いところです。様々な考えに触れられて、とてもいい刺激になります。
山本 吉祥寺という落ち着いた環境で勉強できるところ。そして、学びに対して全力でサポートしてくれるところです。
平野先生 1年生からゼミ形式の授業があるなど、ゼミの体制を重視している点が成蹊大学の特徴であり、強みであるように思います。そして、学生のポテンシャルがすごく高い。そのポテンシャルを生かして、先ほどの歌占の話ではありませんが、もっともっと外に出ていくべきだと思っています。
ー 古典文学専攻というと堅苦しいイメージがあったんですが、覆されました。皆さん、今日はありがとうございました。