2025年07月25日
澄み渡る青空の下、蝉の声が鳴り響く夏のキャンパスで、ひときわ大きな拍手の音が―。それが聞こえてきたのは、文学部国際文化学科の初めての取り組みとして実施された、卒業生によるゲスト講義です。
講義は「国際関係論入門」(担当教員:川村陶子教授)の授業の中で行われ、川村ゼミの1期生で、現在は国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ユース連携担当としてご活躍される、天野裕美さんをゲストにお迎えしました。天野さんはこれまで、中東やアフリカで青年海外協力隊、日本大使館、国際機関などの業務に従事し、現在は成蹊大学経営学部の客員教員も務められています。講義には在学生や教員のほか、国際文化学科の前身である文化学科の卒業生など、多くの来場者が訪れました。その様子をレポ―トします。
第一部では、天野さんが所属する国連開発計画(以下、UNDP)の活動紹介がなされました。
UNDPは国連の主要な開発支援機関の一つですが、日本ではその活動はまだあまり知られていないのが実情です。UNDPは各国の開発したいことにあわせて活動をしているため、内容もさまざま。貧困削減、国家の仕組み作りのための選挙支援、グリーンエネルギーや環境開発の補助、ジェンダー格差の問題の解消に向けた取り組みなど、対象国の国家や自治体が求めるものに寄り添って活動を行っています。
「活動にはいずれも、SDGsに貢献していく、将来世代に負担がかからないように、持続可能な社会・経済・環境をつくっていくという信念をもって取り組んでいます。」と天野さんは語ります。
第一部の最後には、天野さんが現在携わっている若手の社会起業を支援する「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」プロジェクトの説明があり、起業コンテストや起業に役立つ学習支援、ワークショップなど、学生の将来に向けた活動を後押しするような情報共有がされました。
必死にメモを取る学生の姿も
続けて第二部では、中東やアフリカ各国での天野さん個人の活動紹介がなされました。
青年会議協力隊(JICA)在籍時にはヨルダンの児童館に派遣され、ヨルダンの学校の授業にはない図工を教えたり、よさこい踊りの大規模イベントを開催し反響があったりしたこと。在外日本大使館の専門調査員として派遣されたカタールでは、日本の「温故知新」の伝統と発展の考えや、日本文化(マンガ・アニメ等)がリスペクトされていることを知ったこと。UNDPスーダンでは、ダルフール地方の青年ボランティア・平和復興支援プロジェクトで現地の大学卒業者にビジネスや環境に関するトレーニングしたことなどをテンポよく説明します。いずれも、各国の料理や遺産など、文化の分かる写真も交えながら、国の実情が語られました。
「中東やアフリカでは、、日本の文化や歴史が認められ、評判が高かった。それを、日本人の私たちが知らないのはもったいない。日本の文化や価値観を活かしつつ、新興国をはじめとするアジア・アフリカの国々への理解を深めることで、互いに尊重し合える協力関係が生まれるのではないでしょうか」と、天野さんは来場者に問いかけます。
講義の最後には「相手の国のことを知って、好きになると、自然と争いたくなくなるものではないでしょうか。現在は紛争の影響で支援に向かえない国もあり、個人で出来ることは少ないが、『知る』ということも一つできること」と語る天野さんの姿を、懸命な眼差しで見つめる学生たちの姿が印象的でした。
講義の最後には、来場者からの質疑応答があり「各国の生活の変化で困ったことは?」「ご結婚・出産を経てのワークライフバランス」などさまざまな質問が寄せられました。「仕事のやりがいは?」の問いかけに「海外で支援する道を目指し始めた頃は、子どもの保護をしたいという思いが強かったが、自分の“やりたい”が具体的にあるのに子どもだからチャンスをもらえない、そんなユース・若者世代を支援し、自分が携わった事業で、チャンスが広がったなどと聞くと嬉しい。それがやりがい」と答える天野さんに、大きな拍手が寄せられました。