2026年07月22日

成蹊大学文学部の「デジタルアーカイブ概論」で、一風変わった本探しの課題が出されました。2026年度からスタートした「デジタル・ヒューマニティーズ科目群」の一つとして開講されたこの授業では、デジタルアーカイブを単なる「資料のデジタル化」としてではなく、知識をどのように整理し、保存し、人々に届けるのかを考える「知のインフラ」として捉えます。図書館での本探しを入り口に、人文学とデジタル技術、そしてAIの関係について考えた、とある日の授業を紹介します。
「デジタルアーカイブ」とは何だろう

「デジタルアーカイブ」と聞くと、古い資料や写真をスキャンしてインターネット上で公開する仕組みを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、授業を担当する文学部の前山和喜客員講師は、デジタルアーカイブをもっと広い概念として捉えています。
デジタルアーカイブとは、資料を保存するだけではなく、知識を社会の中でどのように共有し活用するのかを設計する仕組みでもあります。授業では、図書館をはじめ異なる現場における資料の収集や保存の方法を学びながら、デジタル化によって生まれる可能性と課題について考えていきます。
「分厚い本」をどう探す?
学生が発見した分厚い本
授業では、実際に情報図書館を利用した本探しの課題に取り組みました。提示されたお題は、
など、少し変わったものばかりです。書名や著者名からなら簡単に検索できても、「分厚い本」はどうでしょうか。図書館の蔵書検索システム(OPAC)には書名や著者名、出版社、縦の長さなどの情報は登録されていますが、本の厚みまでは登録されていないことがほとんどです。つまり、利用者が探したい情報と、アーカイブが記録している情報にはズレがあるということです。学生たちは実際に本を探しながら、「どのような情報が記録されていれば資料は見つけやすくなるのか」という、デジタルアーカイブの根本的な問いに触れていきます。
本を探す過程そのものが学びになる
さまざまなツールを駆使して
お目当ての本を探す学生たち
課題に取り組んだ学生からは、さまざまな発見がありました。
「他の本を探して入った書架でたまたま見つけた」
「洋書にあたりをつけて洋書の書架を漁ったら見つけた」
目的の資料に向かって一直線に到達するだけではなく、書架を歩きながら偶然の発見に出会う。こうした経験は、検索結果の一覧だけでは得られない図書館ならではの体験です。
また、デジタル技術も積極的に活用しました。
「生成AIで謝辞が長い本を教えてもらって、そのタイトルをOPACで検索し図書館にあるか探した」
生成AIを使って候補を探し、その後図書館の蔵書検索で所在を確認する。
この授業では、AIとアナログ的な手法を対立するものとして捉えるのではなく、それぞれの特徴を理解しながら組み合わせて活用する方法も学んでいます。
鳥獣戯画の巻物を
司書から受け取る学生たち
「司書さんに聞いたら鳥獣戯画の巻物が出てきた」
という学生もいました。
検索システムだけでは見つからなかった資料に、人との対話を通じてたどり着く。
そこには、デジタル化が進んだ現在でも専門知識を持つ人の存在が重要であることが表れています。
AI時代だからこそ問われる人文学の視点

近年、AIによる画像認識や自然言語処理の技術は急速に進歩しています。もし膨大な書籍画像をAIが分析できれば、「分厚い本」や「ティラノサウルスの絵が載っている本」も簡単に検索できるようになるかもしれません。 しかし、そのためには何を記録し、どのような形でデータとして残すのかを考えなければなりません。何が重要な情報なのか。どのように分類するのか。どのような文脈で資料を結び付けるのか。こうした問いは、人文学が長年向き合ってきたものでもあります。AIが発展する時代だからこそ、「読む」「分類する」「意味づける」という力が、これまで以上に重要になっているのです。
デジタル・ヒューマニティーズの入口として

2026年度にスタートしたデジタル・ヒューマニティーズ科目群は、人文学とデジタル技術を結び付けながら新たな知の可能性を探究する教育プログラムです。「デジタルアーカイブ概論」もそのうち一つ。図書館で本を探すことから始まり、デジタルアーカイブ、そしてAIへ。資料がどのように整理され、人々に共有され、未来へ受け継がれていくのか。この授業は、私たちが日常的に利用している知識の仕組みを見つめ直し、AI時代における人文学の意義を考える機会となっています。