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文学部 芸術文化行政コース「制作実習A・B」取材レポート①

2021年12月06日

PICK UP!


文学部 芸術文化行政コース
「制作実習A・B」
※2022年度入学生以降は「制作演習」


成蹊大学文学部では2020年4月より「日本語教員養成コース」「芸術文化行政コース」を開設しました。今回は芸術文化行政コースの特徴的な講義の1つである「制作実習A・B」(2022年度入学生以降は「制作演習」)の様子をご紹介します。

学生自らが芸術と社会をつなぐ企画を
立案・運営する

制作実習A・Bの最終的な目標は、学生自らが演劇祭や美術展、音楽祭や写真展などを企画立案から実現まで行うことです。今年度は「障害とアート」というテーマで実習が進行しています。

今回取材した講義ではゲスト講師として九州大学大学院芸術工学研究院助教 長津結一郎氏(専門:芸術と社会包摂)を招へいしました。長津氏は障害のある人々と行う芸術文化活動に関する専門家。長津氏のような専門家とコミュニケーションを取ることで、学生に企画のイメージをさらに掘り下げてもらう狙いです。

九州大学大学院芸術工学研究院助教 長津結一郎氏

●映画『記憶との対話~マイノリマジョリテ・トラベル、10 年目の検証~』鑑賞

講義は長津氏の自己紹介、アイスブレイクを終えた後、ドキュメンタリー映画『記憶との対話~マイノリマジョリテ・トラベル、10 年目の検証~』の鑑賞に移りました。この映画は「障害」と「健常」、あるいは「マイノリティ」と「マジョリティ」の"境界線"について、果たして誰が、どんな線引きをしているのか、疑問を投げかけます。学生たちはその示唆に富んだ内容にじっと見入っていました。

映画にじっと見入る学生

●普段の生活で境界線を自覚するには?

映画鑑賞を終えた後は5人ほどのグループに分かれ、映画の内容から考えた「問い」を出し合いました。学生からは「境界線を引くこと自体の是非(得をするのは健常者?)」「私たちは境界線を意識して活動すべきか?」など、多くの問いが挙げられました。その中から、講義後半で議論する問いを多数決で決定。選ばれたのは「普段の生活で境界線を自覚するには?」という問いでした。

講義内では活発な議論が展開

この問いについて、学生からは

  • 「そもそも自覚する必要はあるのか?自覚するということは線を引くことと同義では」
  • 「一人で自覚することは難しい。他者との関係の中で境界線が見つかるのでは」
  • 「自分とは違うと思っていた人達も、接してみると自分と何ら変わりないことに気づかされることが多い。自分の属する集団から一歩引いて考えたり、様々な人と関わりを持つことで、何が境界線として引かれていたのかが見えてくるのではないか」
  • 「ある環境に身を置いた時、マジョリティと思っていた自分が、その場ではマイノリティになっていると自覚する瞬間があった。境界線や障害というのは固定されたものではなく、社会や環境によって変化するものだと思う」

などの意見が出ました。これを受け長津氏は「どのような文脈で相手が境界線を引いているのかを考えることも大切」としつつ、「境界線を引くということは、誰かを疎外してしまう危険性もあるし、一方でマイノリティと呼ばれる人たちにとって、境界線は自分を守るものでもある。その両面性を認識してほしい」と語りました。


学生から出た問いについて教員も真剣に考察

学生の意見も熱を帯びる

●「障害とアート」についての基礎概論・質疑応答

ディスカッションを終えた後は、長津氏による「障害とアート」についての基礎概論が行われました。基礎概論では長津氏が現在行っている活動や先行事例の紹介のほか、障害者とアートについてのこれまでの軌跡、今回の講義を踏まえた境界線についての考え方が示されました。

質疑応答では「公共交通機関乗車時における障害者に対する関わり方(席を譲ろうとしたら拒否されてしまった)」「SDGsにおける障害者とアートについてどう考えるか」などの質問が寄せられました。特に前者の質問については、長津氏から「画一的な対応ではなくその都度相手とコミュニケーションを取って相手が何を求めているか、いないのかを共有することが大切」と回答があったほか、槇原客員講師からは「一瞥して『この人は障害者だから席を譲るべきだ』といった判断は、『相手が障害者である』という、あくまで自分の視点での判断に過ぎない。相手とコミュニケーションを取ることで、一方的な思い込みを防げるのでは」と回答がありました。

質疑応答は時間いっぱいまで続き、講義は盛況のうちに終了しました。

質疑応答は時間いっぱいまで継続

講義を終えて長津氏は「芸術そのものの美しさを極めたり、卓越した技術を研鑽することも必要。しかしそれだけでなく、人が芸術を通じてどんなことをしているのか、芸術を社会の中でどのようにデザインすることができるのか考察する視点は、将来における芸術の受け手の裾野を広げるきっかけになる。また、本当に目指すべき未来の社会について芸術を通して考えるということは、学生のみならず企業や社会にとっても大切。今回講義を受けた学生が社会に出た後、物事の本質を捉えながら社会に対してアクションをしてくれたらうれしい」と語りました。

槇原客員講師は今回の講義について「学生がすごく楽しみながら講義を受けていたのがとても印象的。私も過去に今回の映画を観て衝撃を受けた1人。その経験をぜひ学生にもしてもらいたいと考えていた。制作実習は来年度の制作実習C・Dにおける企画実行をもって完結する。現時点では、障害者の方々とのコミュニケーションを通じたアートプロジェクトの様子を映像作品として制作し、シンポジウムで発表する予定。完成をお楽しみに」と語りました。

講義後のアンケートでは、様々な感想が寄せられました。

  • 障害者、健常者といった括りに限らず、一人一人が異なる存在であるということを意識して、その違いや、境界線を意識した上で、距離感を大切に、コミュニケーションをとることが重要であると考えた。また、こうするべきだというひとつの固定的な考え方に縛られるのではなく、一人一人と関わっていくなかで、どうすることが求められているのか、柔軟に考えていくことが必要であると考えた。
  • 今回の授業では、自分や社会の中にある境界線について、これまでにないほどじっくり考えることができた。私達の周りには、まだまだ気づいていない境界線がたくさんあるはず。その境界線に気づいたときにどのように発信し、ただの綺麗事として終わらないようにするにはどうすれば良いのか、これから考えていきたい。

学生たちにとっても貴重な経験になったようです。

なお、次週は社会的包摂型アートに精通し、障害をもつ人々や地域住民、さらには大学生とともにアートプロジェクトを数多く共創している、アーティストの大西健太郎氏をゲスト講師として招き、身体表現などのアートを通じた「新しいコミュニケーション」について理解を深める予定とのこと。こちらの様子は取材レポート②で詳しく取材しています。ぜひご覧ください。

取材レポート②はこちら