Highlights

Highlights

「丸の内ビジネス研修(MBT)」と「三菱海外ビジネス研修(MOBT)」。 産学連携の実践的プログラムにより社会で役立つ力を養成―vol.1

2025年12月23日

Interview


「個性の尊重」「品性の陶冶」「勤労の実践」を建学の精神に掲げ、社会で活躍する人材を送り出してきた成蹊大学。三菱グループとの歴史的なつながりを背景に経済界と太いパイプを持つ同大学では、そのネットワークを活かして産学連携プログラム「丸の内ビジネス研修(MBT)」「三菱海外ビジネス研修(MOBT)」を実施している。プログラムのねらいや内容をキャリア支援センター所長・戸谷希一郎教授と同センター事務室事務長・本郷有充さんに、そしてプログラムを体験した二人の学生に話を聞いた


◆約7カ月にわたり本物のビジネスを体験する

「学生一人ひとりの個性を尊重し、自ら進んで学ぶ人間を育てる」ことを目指し、きめ細やかなキャリア教育を行ってきた成蹊大学。時代の変化や社会の要請に応じてキャリア教育の内容もアップデートしており、2013年からは「丸の内ビジネス研修(MBT:Marunouchi Business Training)」を開催している。

これは、三菱グループはじめ数々の企業の協力のもと、ビジネスの中心地・丸の内で実践体験を積む産学連携の人材育成プログラムである。原則として3年生を対象とし(理工学部は大学院1年生も対象)、これまでに延べ366人の学生が参加してきた。

「MBTの参加にあたっては選考が行われますが、約3倍の倍率を突破する必要があります。それだけに、このプログラムの参加者の真剣度は高いと言えますね」とキャリア支援センター所長の戸谷教授は話す。

戸谷希一郎(とたに・きいちろう)/キャリア支援センター所長、理工学部理工学科教授。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。理化学研究所で研究員を務め、2008年、成蹊大学に着任。MBTのプログラム運営にも注力している。

プログラムは大きく分けて「学内準備研修」「丸の内研修」「インターンシップ実習」「インターンシップ成果発表会/丸の内成果発表会」の四つのステップで構成される。「学内準備研修」では、ビジネスマナー講座の受講のほか、協力企業から提示された課題に対してチームで解決法を提案する。課題は企業が実際に直面しているものばかりで、より実践的な課題解決力が試される。各チームにキャリア支援センターの担当教員が付いて伴走するものの、プログラムは基本的に学生主導で進行される。

「チームは学部学科の枠を超えた文理融合型の6人編成で、それぞれのバックグラウンドを活かして課題に挑みます。ビジネスの現場では、多様な人と協力し合って結果を出す必要があるので、この事前研修は"社会人基礎力"を身に付けるのに役立つと考えています」(戸谷教授)

「学内準備研修」の中間発表会では、企業の担当者から直接フィードバックを受ける機会もある。その後、「丸の内研修」で企業の担当者を前にプレゼンを実施。夏休みにはすべての学生がインターンシップ実習に参加し、ビジネスの現場を体感するが、課題を提供した企業以外の会社に派遣されるケースもある。

そして、プログラムの集大成となるのが「丸の内成果発表会」だ。協力企業の担当者や学内関係者ら約100人の聴衆の前でプログラムの成果を発表し、審査を経て最優秀グループが決定する。

協力企業は、2025年度はインターン11社、課題提供が5社。過去にも三菱商事、三菱重工業、三菱UFJ銀行、明治安田生命、清水建設、大正製薬をはじめ、そうそうたる有名企業が名を連ねている。なかでも三菱グループの企業が多いのは、成蹊学園と三菱が歴史的に深い関係があるためだ。

成蹊学園の創立者である中村春二と三菱財閥の四代目総帥・岩崎小弥太は、中学・高校時代の友人だった。中村の教育理念に深く共感した岩崎は成蹊学園理事長にも就任し、物心両面で学園の経営を支えた。創立から100年以上の時を経た現在も、理事長や評議員に三菱系企業の出身者が就任するなど、結びつきは強い。

多くの企業がMBTに参画しているのは、企業側もこのプログラムにメリットを感じているからだ。

「社員の刺激になるからと、学生が提案した課題解決策をMBTとは別に社内で発表してほしい、と依頼を受けたこともあります。MBTを経て協力企業に就職した学生は受講者の3割に及び、優秀な人材の獲得という面でも評価されているようです」(戸谷教授)

◆海外体験の価値を可視化し、挑戦を続けられる人材を育成

人材育成プログラムのフィールドは、国内にとどまらない。2023年からは海外での企業研修を通じて、グローバルな視野とビジネスマインド、異文化理解力などを養う「三菱海外ビジネス研修(MOBT:Mitsubishi Overseas Business Training)」をスタートした。今年3期目を迎え、延べ45人が参加している。

これまでの派遣先企業は、三菱商事クアラルンプール支店(マレーシア)、いすゞ自動車 いすゞマレーシア(マレーシア)、三菱UFJ銀行傘下のアユタヤ銀行(タイ)、大正製薬傘下のハウザン製薬(ベトナム)など、東南アジア地域が中心となっている。その理由について、キャリア支援センターの本郷氏は次のように語る。

「成長著しいASEAN地域において、ダイナミックに展開するビジネスの現場を体感してほしいというのがねらいです。さらに今年度からはキリンホールディングスのグループ会社であるライオン社(オーストラリア)が加わり、今後はインドなどへの派遣も視野に入れたいと考えています。いまの学生は内向き傾向と言われますが、海外体験の価値を可視化することで、さまざまな変化に対応しながら挑戦を続けられる人材を育てていきたいと思っています」

本郷有充(ほんごう・ありみつ)/キャリア支援センター事務室事務長。2003年に成蹊学園に入職。広報課(現・企画室広報グループ)、教務部課長を経て、2021年より現職

MOBTで特筆すべきは、往復の航空券代や現地の宿泊代などの経費に対し、上限はあるものの大学から補助が出る点だ。三菱金曜会所属企業からの寄付を原資とする「成蹊学園三菱留学生奨学金」から費用を充てるため、学生の個人負担は原則、現地での交通費や食費のみで済む。これは、昨今の円安下における渡航の難しさを考えると、学生や保護者への大きな助けとなるだろう。

MOBTも3年次生を対象としており、参加するには選考を突破する必要がある。GPAやTOEICスコアなどの条件を満たした学生を対象に募集し、書類審査を経て英語・日本語両方での面接を行い、合否が決まる。派遣前にはオリエンテーション講座や事前研修を受け、派遣先企業の事業内容について理解を深め、派遣先で学びたいことをプレゼンする。このプレゼンには現地企業のスタッフもオンラインで参加するという。そして夏休み期間を利用して渡航し、約1週間にわたって協力企業での経験を積む。

「現地研修は基本的にすべて英語で行われます。日本人の駐在員の方だけでなく、現地スタッフにも協力していただき、業務内容の説明を受け、工場などを視察するほか、現地の学生と交流したり、企業の社会貢献活動に参加したりすることもあります」(本郷氏)

帰国後、派遣先企業が抱える課題の解決策を成果発表会で提案。一連の流れを通じて、学生には大きな変化が表れるという。

「グローバルビジネスの現場を体験することで、海外就業に対する解像度が上がり、視座が高まります。また、普段はできない経験を通じて度胸や自信がつき、就活により前向きに取り組む姿勢が見られるようになります」(本郷氏)

◆MBT、MOBTを経て活躍するOB・OGとの"縦のつながり"

写真上:MBTの成果発表会 下:MOBTでの工場見学の様子

MBT、MOBTでの経験は就職にも有利に働いているようだ。成蹊大学の今春の卒業生の有名企業400社への実就職率は、22.2%(※1)。これだけでも十分に優秀な数字と言えるが、MBT参加学生に限ると57.1%、MOBT参加学生は46.7%に跳ね上がる。

出典:「2025年有名企業400社実就職率ランキング」(大学通信)。「実就職率(%)は、400社への就職者数÷〔卒業生(修了者)数-大学院進学者数〕×100で算出」。全体:392名÷(1,868名-103名)×100=22.20%/MBT:16名÷(29名-1名)×100=57.14%。MOBT:7名÷(15名-0名)×100=46.67%(MBTとMOBTの実就職率は成蹊大学が算出)

「協力企業はもちろんですが、MBT、MOBTの活動に対する評価が高まるにつれ、『このプログラムに参加している学生に会ってみたい』と考える企業が増えているようです」と戸谷教授は言う。2023年からは、MBT、MOBTを経験し、すでに社会で活躍している先輩たちが、自身の就活体験や現在の仕事内容などについて現役生と対話するフォローアップセミナーも開催。「こうした縦の連携も、今後は充実させていきたいと思っています」

現在、成蹊大学では3〜4年生の約3人に1人がキャリア支援センターの個別相談を利用し、そのうち約85%が大手企業から内定を得ているという。MBT、MOBTをはじめ、キャリア支援センターでは学生のキャリア形成に対して全面的にバックアップ、エントリーシートの作成から面接練習まできめ細やかな対応をしている。

「比較的小規模な大学だからこそ可能、ということはあると思いますね。すべての学部学科が吉祥寺キャンパスに集まっているので、文系・理系の学生が一緒に学ぶことで多様性に触れ、総合的な成長が期待できる。それが本学の特長と言えるのではないでしょうか」(本郷氏)


vol.2へ続く

この記事は朝日新聞Thinkキャンパスに掲載されたものです


前の記事 次の記事