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成蹊大学文学部芸術文化行政コース 成果発表会を開催しました

2022年11月02日

文学部

7月9日(土)、文学部芸術文化行政コースの成果発表会「SEIKEI ART SYMPOSIUM 2022~手と手でつなぐ人と人~」が武蔵野芸能劇場で開催されました。制作実習「A・B・C・D」の集大成となる今回の発表会の様子をレポートします。

昨年度から今年度にかけて行われた「制作実習A~D」は、障害のある方々とのコミュニケーションを通じたアートプロジェクトの様子を映像作品として制作し、成果発表会(シンポジウム)で発表することをゴールとして進められてきました。学生たちはこれまで座学、アーティストとのコミュニケーション、NPO法人ペピータの日中一時支援事業「ペピータくらぶ」への訪問、「マノ・マノ・ムーチョ!」お披露目会などを経て、今回の成果発表会に臨みました。

●成果発表会成功に向けて

「制作実習A~D」では、アートプロジェクトの企画制作から実施まで、一連の流れを学生自らがおこなう実践的な学びが重要となっています。発表会当日、学生はロビーの掲示物のセッティングにはじまり、舞台音響や照明の調整、投影資料の確認など、それぞれが自分の役割を認識し、アートプロジェクトの成功に向けて一丸となって取り組んでいました。

担当教員である槇原彩客員講師はこれらを経験する意義について、「ひとつのアートプロジェクトやイベントが当日を迎えるまでに、いかに多くの人々が協力して動いているか。そしてその集大成として『当日』があることを体感してほしい」と語ります。学生たちの目は真剣そのもの。今回の成果発表会にかける想いが伝わってくるようでした。

●第1部『マノ・マノ・ムーチョ!』活動報告

今回の成果発表会では、成蹊大学文学部芸術文化行政コースと、武蔵野市内に拠点をもつ障害福祉系の特定非営利活動法人ペピータが2021年度より協働制作したアートプロジェクト『マノ・マノ・ムーチョ!』の活動報告が行われました。

マノ・マノ・ムーチョ!は、アーティスト 大西 健太郎氏発案のもと、コース所属学生とNPO法人ペピータの日中一時支援事業「ペピータくらぶ」の利用者が、言葉を用いずに「手」の動きや表情を通じて踊りの掛け合いをする「手の会話」を基にダンスパフォーマンスを展開するアートプロジェクト。本プロジェクトの目的は、ペピータくらぶの利用者やそのご家族、地域の方々と成蹊大学文学部芸術文化行政コース所属の学生が交流して共に創作の過程を楽しむこと、アートを通じた新たなコミュニケーションの方法を模索することです。

©冨田了平

©冨田了平

活動報告では、2021年度から継続してきた計6回にわたる「ペピータくらぶ」への訪問および利用者との交流の模様やそのお披露目会についての報告のあと、その過程でぶつかった課題や活動を通して変化した意識、本プロジェクトの意義についての発表が行われました。

本プロジェクトの意義について、学生は「一人ひとりが表現者として一緒に作品を作り上げる中で、『障害者/健常者』という境界がなくなる場が出来上がったことに加え、健常者が障害者の表現活動をサポートするという『障害者アート』とは異なる『社会包摂型アート』と言えるアートのかたちを見出せたことである」と語りました。


その後、プロジェクトの活動の様子を記録した映像作品が上映され、第1部が終了しました。

●第2部トークセッション

第2部では、文化政策の専門家であり武蔵野市の文化行政にも長年携わってこられた東京大学の小林真理教授や、社会包摂と芸術の専門家である九州大学の長津結一郎准教授、NPO法人ペピータの酒井陽子理事長、これまで本アートプロジェクトで学生と並走してきたアーティストの大西健太郎氏を招き、芸術文化行政コースの学生代表として文学部現代社会学科3年 朝倉理子さん、文学部 川村陶子教授の司会でトークセッションが開かれました。

トークセッションでは、それぞれの立場から本プロジェクトへのフィードバックがあったほか、アートや障害、福祉、表現について活発な議論がなされました。

特に、大西氏の「わからないということを諦めない」という言葉は、本プロジェクトで“わからない”を手放さずに思考し続けてきた学生たちにも響いたようです。本プロジェクトを通して、初めての他者と触れ合う不安や、既に関係性が出来つつある場に飛び込む恐怖があったことを朝倉さんが登壇者へ共有した際、登壇者の先生方からは共感の声があがりました。また、小林氏からは「おそらく人生には、答えがない。でも、常にそういうことに向かっていかなければならない」という投げかけがありました。就職活動を控えた学生たちにとっては、本プロジェクトを通して向き合い続けた“わからない”だけでなく、将来へ向けた漠然とした不安をも他者と共有する貴重な時間となったようです。


その後、質問タイムが設けられ、多くの方々からご質問やご意見がありました。

アートプロジェクトを終えて、学生からは

「障害者の方と関わる機会が今まであまりなかったが、本プロジェクトでの経験を通して、障害者の方と身体表現をしているというよりは『1対1の人間』『一緒に作品を創りあげる人たち』という思いになった。そのようなところでは、障害のある人も私もあまり変わらないかもしれない。これが、社会側に障害がある、ということなんだなと感じた。今後、自分が生きていくなかで、今回の経験を絶対に活かせると思っている。この経験を忘れずにずっと持ち続けたい」

「先生たちのトークセッションの中で、今まであえてわからないままで生きてきたことを、言葉にしようとする努力が大切だというお話があったので、少し心が軽くなった。これからも学ぼうとすれば、いくらでも学べるということがわかったので、自分のまだ言葉にできていない経験や感情を噛み砕けるように、今後も色々取り組んでいきたい」という声がありました。

槇原客員講師は「学生たちの『自分たちの経験を伝えたい』という真摯な思いを、登壇者の先生方をはじめ、対面とオンラインでお越しくださった皆様にあたたかく受けとめていただき、1年間見守ってきた教員としてもほっとした。アートプロジェクトで得た経験は、アートであるからこそ言葉にできないというものもあると思う。答えのない“わからない”に向き合い続け、自分なりの言葉を模索し続ける学生たちの姿に、私も励まされ、多くのことを学ばせてもらった」としています。

学生たちにとっても素晴らしい経験になったようです。今後の芸術文化行政コースの取り組みに、ぜひご期待ください。